ここ最近、サリーがホイル大佐の推しキャラランキングの上位に食い込んできているらしいということは、最近の投稿からも見てとれた。この間サリーが主役のスピンオフが出たからその影響だろう。わたしもそのアニメを見たけれど、あれは涙なしには見れなかった上、サリーの株が相当にあがる内容だった。
 分かるよその気持ち、ホイル大佐!
 思わず熱くなった胸を押さえて原田くんに目をやったのに、彼は修行僧のような表情をして黒板をじっと見つめて固まっているだけだ。

「……のんさぁ、本当に知らないの?」

 しかしそんなわたしを、美香ちゃんは疑いの目でじとっと見つめてきた。その疑惑が込められた自然に心臓は跳ね上がる。

「……なにが?」
「ホイル大佐様のこと」
「知らないよ」

 とぼけてみても美香ちゃんはわたしから視線を外さない。まるで蛇に睨まれた蛙になった気持ちだ。

「ホイル大佐様、のんのことフォローしてるよ?」

 ギクッという擬態語は今のわたしのために生まれたのかもしれない。そんなことを思うくらいに、わたしは分かりやすく体を揺らしてしまった。

「……ヒック!」

ちょっと無理があっただろうか。頑張ってしゃっくりにしてみたが、美香ちゃんは眉一つ動かさない。こ、怖い。

「わたしはアニメが好きだって、前からインタビューでも答えてたから。たまたま見かけてフォローしてくれただけじゃないかな。そもそも自分のフォロワ─欄とか把握してないし……」

 目を泳がせつつもそう言えば、美香ちゃんは腕を組みながら「まあ、確かにねぇ。わたしもアニメ好きを公言したから時間の問題かしら」とそこでやっと視線を外した。フォロワー数の多い美香ちゃんにとって、わたしの最後の言葉は多少なりとも響いてくれたようだ。それにしても、ホイル大佐は一体いつ、のんのんのアカウントをフォローしてくれたのだろう。向こうの席の原田くんは知らん顔で絵を描いている。

「ホイル大佐様はさ、もう絶対的存在なの! 絶対かっこいい。絶対素敵すぎる。絶対頭いい。本当最高! 世界一いい男!」

 美香ちゃんは乙女のように胸の前で両手を組んで声高らかに宣言した。すると、それまで話に入ってなどこなかった原田くんが冷たい声で言葉を発したのだ。

「とんでもないほどに気持ち悪い男かもしれないだろ」

 なんてことを言うのだろうか。わたしがおもむろに顔をしかめると、原田くんはフン、と横を向いた。いくら自分のことだとしても美香ちゃんはその事実を知らないのだ。憧れの人を悪く言われたら誰だって気を悪くするだろう。ところが、彼女はまあるい瞳をくるりとさせて朗らかに笑った。

「なにそれ。そんなの、全然気にならないよ!」

 なぜだかわたしの心臓がドキリと鳴った。

「どんな見た目でも関係ないよ。太っててもいいし頭ツルツルでも構わない。わたしはホイル大佐の中身が好きなの。見た目なんて所詮、作られたものじゃない」

 ゆっくりと原田くんの表情が変わっていくのを見たわたしは、酸素が薄くなるのを感じた。くらくらとこめかみあたりで渦が巻く。ああ、これから何かが変わるのかもしれない──。そんなことを感じた。それと同時に、わたしは自分の中に生まれた感情に戸惑ってしまう。それは、「美香ちゃんがうらやましい」という感情。

 ホイル大佐を好きだとなんの躊躇もなく言える彼女がとてもうらやましい。なぜだかわたしはそう思ってしまったのだ。