『初めてのコメント失礼します。サリ子といいます。アニメの魅力にはまったばかりですが、ホイル大佐さんの投稿を興味深く見させてもらいました。フォロ─させていただきます。よろしくお願いします!』

 十回以上は読み直したと思う。どきどきと心臓は全力疾走。こんなに緊張するのはいつぶりだろうか。初めてドクモとしての撮影をした時以来かもしれない。そんなことを思いながら、わたしは投稿ボタンを押した。好きな人にメッセージを送る時ってこんな気持ちなのかな、なんて考えてから、いやいや相手はあの原田くんだぞ! とぶんぶんと首を振った。
 普通、コメントの返事というのはどのくらいのペースで来るものなのだろう。SNSを使いこなせていないわたしにとって、こうやって誰かにコメントをするなんていうことも初めての経験だ。
 すーはーと深呼吸をひとつしたところでピコンッと通知音が鳴る。思っていたよりも早い反応に、わたしは緊張しながらスマホを開いた。

「返事めっちゃ速いんだけど……」

 そこに現れたのは、ホイル大佐からの返事。まだ一分も経っていないのに。

『フォローありがとうございますホイル大佐です。サリ子さんのアイコンですが、著作権で保護されているものです。使用を控えることをお勧めいたします』

 思ってもいなかった方面からの指摘に、がくーっとわたしは頭を下げた。オタクの世界も、甘くはないようだ。
 気を取り直して、この界隈のルールを検索してみる。なるほど、アニメの画像をそのまま使うと著作権の侵害にあたるらしい。それぞれの畑にはそれぞれのルールがある。どこの世界でも、ルールとマナー、そして配慮は大切だ。郷に入っては郷に従えとは、昔からのおしえである。

 それじゃあ、と先日撮影で訪れたマスカット畑で撮った写真をカメラロールから探し出した。サリーのテーマカラーはマスカットグリーンだったし、これならばわたしが撮影した写真だから著作権の心配もないだろう。爽やかで明るいグリーンのマスカット。それをアイコンに設定して、わたしはホイル大佐への返事を送る。

『失礼しました。アイコンの件、教えていただきありがとうございます。ぜひこれからも色々と教えてください!』
『ご理解と迅速な対応ありがとうございます。むむっ、それはシャインマスカットでは? サリーのテーマカラーから本物のマスカットの写真をこの数分でチョイスするとは。サリーへの愛の深さを感じます』

 え、褒められた? やった! 

 思わずのガッツポーズ。しかし問題は次だ。どうしたら会話がちゃんと続くだろうか。質問で返せば続くかな。すぐに返したら早く会話が終わっちゃうかも。少なくとも五分は待つべき? なんて、そわそわしてしまうわたしは、まるで恋する乙女みたいだ。当然のごとく、恋愛感情は皆無ではあるけれど。
 それでも、退屈だった夜は楽しい時間へと変わって行く。これぞホイル大佐の魔法! なんちゃって。
 しかしながら、コメントのやりとりはホイル大佐からの“いいね”であっけなく終了を迎えた。決して忙しいという理由からではないことは、その後の彼の投稿を見れば一目瞭然。ホイル大佐はいつも通り、ひとりでずっと暴れている。……ある意味忙しいというのは正しいのかもしれないけれど。

 しかしなるほど。SNS上でのやりとりというものは、そんなに頻繁に行うものではないらしい。またひとつ知識を蓄え、レベルアップした気分だった。