「のーんっ! 明日撮影でしょ? 一緒に行かない?」

 翌日のお昼休み、美香ちゃんが教室にやって来た。最初のうちは美香ちゃんを"有名人"として扱っていた学校の子たちも慣れというものがあるのか、今では大袈裟なほどの反応は無くなっている。それでも彼女は、相変わらずかわいくて人気者ではあった。

「あ─明日ね、撮影わたしじゃないよ」
「え? 西山さんからのんに声かけるって聞いてたんだけど」

 美香ちゃんがきょとんとした表情で首をかしげる。その仕草一つをとっても完璧だ。

「うん、連絡は来たんだけどね。明日は用事が入ってたから断ったんだ」

 事実をありのまま伝えれば、美香ちゃんは不服げに唇を尖らせた。

「なにそれ~。デ─トとか?」
「ううん、地元の友達と久しぶりに会う約束してるの」

 美香ちゃんはぴた、と動きを一瞬止めると、その後にそっかぁと残念そうに肩を落とす。

「今までのんは、撮影を何よりも優先していたのにね」

 美香ちゃんからの悪気のない一言。決して他意のない、過去の事実。その言葉に、わたしは眉を下げることしか出来ない。
 撮影は楽しい。しかし、突然入る撮影にスケジュ─ルを全て合わせたことで、わたしは一度大きな失敗を起こしている。約束があるのにそれを直前でキャンセルするということが、どういうことなのか。やむを得ない事情によることもあるだろう。だけど今のわたしは、友達との約束と突然入った読者モデルの撮影、どちらを取るのかと言われれば迷わず友達を選ぶようになっていた。以前ならば、撮影を取っていたに違いないけれど。
 美香ちゃんは「りょうか〜いっ!」とくるんとカ─ルした髪の毛を揺らしながら教室を出ていった。

「……はあ」

 知らぬうちに、小さなため息が生まれていた。
 わたしは変わった。だけど美香ちゃんにとってわたしの変化は、どんなふうに映っているのだろうか。