◇
『ちょっとサリ子! またあいつからコメントきてるじゃん!』
その夜、ぴかりんからメッセ─ジが届いた。ぴかりんはご丁寧にのんのんのアカウントまでフォロ─してくれている。
「はあ、またか……」
ため息と共にのんのんのアカウントを開いてみれば確かに。またあの"名無し"さんからコメントが来ていた。よくもまあ毎日毎日、パワーがすごい。
『ウェブ版のインタビュー読んだけど、好きなものがアニメとかキモすぎ』
今日は雑誌のウェブ版のインタビューが配信される日だったことを思い出す。雑誌の公式ホームページのとあるコーナー。ここではドクモのインタビュー記事が週替わりで更新され、今週の担当分はわたしのものだったらしい。わたしはそれを確認してから、心配してくれたぴかりんに返事をする。
『今気付いた! 大丈夫だよ、きっとそのうち収まるから』
きっと何をしてもしなくても、色々と言いたい人はいるのだ。顔と名前も分からない、インターネット上では特に。
『ぴかりんオコだぞ! なんであいつのこと、ブロックしてないわけ?』
『ブロックしても意味ないかなぁって思って。アニメを侮辱するのは腹立つけどね』
『それは言える。運営に通報』
ぴかりんが名無しアカウントを通報するのは何度目だろうか。もちろんあんな言葉を言われて良い気持ちはしない。だけど人間不思議なもので、ある程度経験すると慣れてくるものでもあるらしい。またか、嫌いな割にはわたしのことチェックしてるじゃん! くらいには思えるようになっていた。そんな発想の転換も全部、ホイル大佐が教えてくれたことだ。
『まあいいんじゃない。どうせサリ子と名無しが直接会うことなんてないんだし』
ぴかりんの言う通りだ。きっとこの人とわたしが出会うことなんて一生ないんだろう。そう思えばただの落書きにも見えた。
『あたしが何かこいつに言ってやってもいいんだけど、火に油を注ぐようなもんだから。SNSではよくあるんだよね、第三者介入によりさらに炎上するみたいな』
確かに以前、ホイル大佐への誹謗中傷にホイル部隊のみなさんが猛反撃していたことがある。その間、当の本人はそのことについて一切言及しなかった。
『SNSは簡単で気軽で、そして面倒な世界なのよね』
軽快なステップを踏むように画面に現れるぴかりんの言葉に、わたしはウンウンと頷く。
それでもこんな世界に惹かれるわたしたち若者は、一体ここに何を求めているのだろうか。