「なに、誰とやりとりしてんの?」
「ぴかりん! この間新しいおかずの作り方教えてあげたんだ」
「またぴかりん? 本当仲良いよな。SNSの友達なんだろ?」

 机に頬杖をついたままこちらを見ている鈴木くんはそう言うと、ぐびりとスポーツドリンクを飲んでからさらに続けた。

「直接会って話したり遊んだり出来ないのに、楽しいの?」

 一緒に過ごすようになって分かったことだが、鈴木くんはSNSには全くと言っていいほど興味がない。SNSのアカウントなんてひとつも持っていないし、アクセスをしたことすらないらしい。彼曰く、友達もいて部活もあって他に何かをやる余裕も必要性も感じないとのこと。実に鈴木くんらしい意見だ。

「メッセージのやりとりだけでも楽しいよ?」
「うーん。顔の見えないやりとりって、なんか実体がない感じがして気味悪くない?」

 鈴木くんは正直だし、まっすぐだ。

「わたしはそう思わないかな」
「でもさ、SNSって匿名みたいなもの出来るんだろ? 変なやつから悪いメッセ─ジとか来たりしてない?」

 彼が言っているのは、アンチと呼ばれるわたしのことをよく思わない一部の人たちの存在だろう。

「そんなのないよー」
「出てきたら俺が特定して吊し上げてやるからな」
「その前に鈴木くんSNSやってないでしょ」

 揶揄うように言えば、いざとなったらいくらでも! と彼はシャツの袖をまくって見せた。
 本当のことを言えば、わたしは鈴木くんに嘘をついていた。ドクモのコンテストで優勝してから今でも、定期的にアンチコメントやメッセ─ジは届いている。根絶させることは難しいということも学んできたし、全く気にしないというのは難しいものの、流すスキルも少しずつだが身に付けてきている。それでもここ最近、目に見えてその嫌がらせがヒートアップしていたのだ。
 しかも今までのものとはタイプが異なる。これまでは不特定多数のアカウントから送られてきていたのが、ここ最近はいつも同じアカウントから届くのだ。アイコンの写真は設定されておらず真っ黒。わたしがブロックをしないから、同じもので送り続けているのだとは思う。ここ最近は毎日送られてくるようになっていた。

『夏のワンピース特集のポ─ジングが下手で笑顔が引きつっててキモい』
『ドクモはやくやめろ』
『最近太った』
『学校じゃ浮いてるに決まってる』
『男に媚びばっか売ってて最低』

 そんな感じのメッセージ。それに対してひとつひとつ返信するのはやめた。以前はそれらにも誠実に向き合おうとしていたけれど、そんな奴らに付き合う必要はないとホイル大佐に怒られたからだ。
 魂を削られるだけだ、と彼は言った。一方的に誌面上のわたしを知っているだけで、向こうは立場も明かしてこない。そんな相手からの意味のない悪意にいちいち反応したって、相手は喜ぶだけだ。とにかくブロックをしろとそう言われた。

 ──まあブロックはしてないのだけど。

 だってきっとブロックをしたって、また新しいアカウントを作って同じように言ってくるだけだ。そう、ちょっと前のわたしみたいに。だからこそ、最善策は反応をしないことで、相手が飽きるのを待つしかない。

 これらのことを鈴木くんに話していないのは、過度に心配をかけてしまうと思ったからだ。鈴木くんはSNSの世界には詳しくないし、きっとその分余計に気にしてしまうだろう。だから何も言っていない。

「何かあったらいつでも言えよな。俺はいつも、のんの味方だ」

 こうやってニコニコと笑っている鈴木くんがとてもいい。鈴木くんにはいつも笑顔でいてほしいと、そう思う。これは『恋』というものなのだろうか。まぶたの裏に、また原田くんの顔が浮かんだ。