こんなにバカげたことを自分がするだなんて思わなかった。何よりもかっこ悪い。
 昔見たアニメで、振られた男がいつまでも女々しく女のことを追いかけるという話があった。あの時、なんて格好悪いキャラクタ─なんだろうと思ったものだ。なりふりかまわず、そこまでやるか? というようなことをしてしまう。恋なんてしたことはないけれど、絶対に俺はこういう男にはならないぞと誓った。──はずなのに。
 あの頃の俺に教えてやりたい。人間なりふりかまわず行動してしまうこともあるのだぞ、しかも無意識に。

 ぽわんぽわんと入力中をしらせるマ─クが画面の上を踊る。やっぱり"ぴかりん"としてでもだめか。そりゃそうだよな、相手が俺だということをサリ子は知っているのだから。それなのに、女同士の会話だ、なんて詐欺もいいところだ。
 どうしたものか。もはやここまでか。いやいやまだほかに何か策があるはずだ。
 クラスの奴らが言うように、あのふたりは付き合うことになるのだろう。俺だって付き合うということに対しての知識くらいはある。気持ちは分からないけれど。

 恋愛っていうのはあれだろ。お互いを束縛し合って監視しあって、他の異性に目移りしないかいつも気を病んで嫉妬に狂って傷つけあって──とまあ、かなり偏っている見識だというのは認める。だとしても、面倒だ。生身の人間同士だからこその面倒くささがそこにはある。腹の奥底では何を考えているか分からないとか、そういうのだ。

 とにかく、花室さんと鈴木のそういった面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。だからこそ、お昼だって別の場所で食べることを選んだんだから。
 俺が思うに、花室さんは恋に夢を見ているのだ。きちんと警告をしておかないと、傷ついて泣くことになるのは花室さんだ。
 これから彼女は、鈴木との恋愛の中で様々な壁にぶち当たることになるのだろう。そういう時にアニメではいつだって、味方になってくれる友達がいるというものだ。彼女にとってその相手は誰なのかといえば、それはきっとこの俺だ。いや、ホイル大佐はだめだ、異性だからな。だからこそ、こんな今こそ! ぴかりんを召喚するときなのだ。

『ぴかりんは、女の子としてこれからもわたしとやりとりをしてくれるっていうこと?』

 きっと何度も打っては消してを繰り返したのだろう。どうやって返事するべきか考えていたのかもしれない。待ち時間にしては短い返事が送られてきた。
 よし! いいぞサリ子! そうだ! そういうことだ!
 俺は小さくガッツポ─ズを作る。花室さんが単純で……いや、ピュアでよかった。

『そうだよ! 女同士の会話だもん。邪魔はさせないゾ!』

 いやあ、指が勝手に動く。頭の中のぴかりん──目が大きなツインテ─ルの恋愛上級者。料理部所属の十七歳──が活き活きと言葉を紡いでいくのだ。こんなの、俺じゃ絶対にできない。ぴかりんだからこそのなせる業だ。なんだよ、ゾって。ゾ。いや、これは俺じゃない。俺の中のぴかりんのセリフだ。俺じゃない。

『ぴかりん! いろいろ相談にのってほしい!』

 どうやら完全に納得したらしい。というか、この状況で納得できるサリ子も大概だ。だけどそんな彼女で助かった。これで俺たちは、これからも堂々とやりとりをすることが出来るのだから。

 ──任せてよ! と俺の中のぴかりんがスカートをひるがえしながらくるんと廻る。
 ──これで繋がっていられると、俺の中のホイル大佐がほっと胸をなでおろす。
 ──この先が肝心だ。どうしたら彼女の気持ちの向きを変えることが出来るのだろうかと、原田洋平が頭をフル回転させる。

 サリ子は友達だ。原田洋平とホイル大佐の正体を知るたった一人の人。知った上でそのどちらも、ぴかりんまでをも受け入れてくれた人。幼い俺の過ちを許してくれた人。初めて俺が腹をたて、そして許すことができた人。繋がっていたいと、強く強く願う人。

 ──失いたくない。どこにも行ってほしくない。

 他の人たちとは違う。花室野々花は原田洋平の、大事な大事な友達なんだ。