『久しぶり! 元気だった?』

 自分でもどうかしてると思う。なんで俺が、わざわざどうして、またこのアカウントを復活させたのかって。

『でも……』

 その言葉の後に、ポワンポワンと相手が入力中だということを知らせる吹き出しマ─クが動く。先手必勝とばかりに俺は次の言葉を打ち込んだ。──彼女の言い訳よりも速く。

『女の子同士なんだし! いつでも相談にのるよ♪』

 パッと画面にその言葉が並び、自分で打ったものだというのに俺は頭を抱えた。いやいやおかしい、どうかしている。何が女の子同士だ! 俺は男で、そのことは彼女だって知っていて、こんなの無理やりすぎるって分かっている。
 だけどこれしか方法が思いつかないんだ。なんとしてでも、途切れさせたくなかった。なんとしてでも、繋がっていたかった。物理的に彼女と俺は隣の席で、毎日のようにちょっとした会話はする。だけどこの電波を介してのやりとりを、サリ子という彼女とのつながりを、俺はなくしたくなかったのだ。
 特別なんかじゃない。別に大事に思うとか、ましてや彼女とどうこうなりたいなんてこれっぽっちも思っていない。ただ、俺にとって彼女は唯一とも呼べる、どちらの世界の俺も知っている友達なのだ。一方的にかもしれないけれど。
 ──それでも確かに、"友達"なのだ。

 ことは十五分前に遡る。ホイル大佐にとあるメッセ─ジが送られてきたのだ。

『もしもホイル大佐に恋人が出来て、その人が異性と連絡を取っていたらやっぱり嫌?』

 差出人はもちろんサリ子だ。突然こんなことを言い出すなんて、何かきっかけがあったのだろうか。
鈴木に俺とやりとりしていることを知られた? いや、それは考えづらい。花室さんは鈍い。この俺が言うのだから間違いなく、彼女は鈍感で気が利かない。だけど決して、口が軽いわけではないし軽率なわけでもない。いくら彼氏になりそうだからと言って、鈴木に俺とやりとりしていることを話すとは思えない。それにしても花室さん、やはり鈴木と付き合う気なのだろうか……。
 とにかくアドバイスを欲しがっていることは理解できる。答えは簡単だ。「何の問題もないさ。そんなのでやきもちを妬く男は器が小さいだけだ」と答えればいい。
 しかし。

『嫌に決まっている』

 なぜかそう返事をしてしまっていた。頭に浮かんだのは、花室さんが鈴木と楽しげにメッセージをやりとりする姿。それが浮かんだ瞬間「嫌だ」と思ってしまったのだ。
 しかしその直後、俺は頭を抱えた。これはすなわち、「鈴木と付き合うならばホイル大佐とは縁を切れ」と言っているようなものだ。どうしてここに削除機能がないのだろうか。絶望することに、その言葉の脇には既に既読の文字がついている。
 まずい……これは非常にまずい……。

『やっぱりそうなんだね……ありがとう』

 絵文字ひとつない彼女からの返信に、深いため息を吐き出す。
 これでいい、何も問題はない。俺だってサリ子とのやりとりに依存していたわけではない。そんなものがなくたって構わない。
 そう思う頭と裏腹に、指先はもう使うことのないはずだったあのアカウントのIDとパスワ─ドを入力していたのだ。

【SNS初心者の女子高生。毎日のどうでもいいこと、かわいいもの。料理勉強中!】

 ──ぴかりんの復活だ。

 こうして、冒頭にもどる。