「鈴木くんがわたしを好き……かぁ……」

お風呂の温度は四十度。ぶくぶくと湯舟に鼻先まで浸かると、ぶわりと頭のてっぺんまで熱が上がる感覚がした。
 わたしのことを好きだと言った鈴木くんは、あの後ひとつの提案をしてきた。それは、一ヶ月異性として意識しながら接してみて、それから答えを出してほしいということ。すぐにわたしが答えられないということを分かっていたのかもしれない。
 ちなみにわたしが以前見かけた女性は、恋人ではなく年上の幼なじみだったらしい。
「のんに誤解されてたって気付かなかったわ」なんて、鈴木くんは大袈裟に胸を撫で下ろしていた。
 はあ、と大きな息を吐き出しながら今度は天井を見つめる。
 嬉しくないと言えば嘘になる。だけど驚きの方が大きかった。そして何より──どうしてか、原田くんの顔がずっと浮かんでいたのだ。



『今日はごめんね。雨、大丈夫だった?』

 お風呂から出たわたしは、意を決してホイル大佐にメッセージを送る。昼休みを終えたわたしは、原田くんの顔を見ることが出来なかった上に、SNSを見ることすら出来なかったのだ。
 教室へ戻ってきた原田くんは、少しだけ上履きが濡れていた。だけど彼は、何も言わなかった。

『全くもって問題ない』

 いつも通り、すぐに返ってきたメッセージにほっと安堵の息をつく。別に悪いことをしているわけではないのに、秘密を隠している子供のような気分だ。

『鈴木、必死だったな』

 続いて送られてきたメッセージに、思わずどきりとしてしまう。まさか告白を聞かれていたのだろうか。なんと返せば良いか考えていると、その後にもメッセージは続いた。

『鈴木の気持ちに気付いていないのはきみくらいだよ』

 ……そうなの?

『きみは知らないだろうけど、クラスのやつらも二人が付き合うのは時間の問題だと話していた』

 淡々と綴られる文字に、胸の奥がぐらぐらと揺れる。

『原田くんは? 原田くんはどう思うの?』

 メッセージではホイル大佐と呼ぶようにしている。だけど今のわたしは、原田くんの気持ちが知りたかった。
 原田くんも、わたしが鈴木くんと付き合うだろうって思っているの──?

『きみたちなら、お似合いだろう』

 知らぬ間に祈るように握っていたスマホに映る無機質な文字。
 わたしの心は、ぱきんと嫌な音を立てて折れた。