ホイル大佐は意外にオープンな性格らしく、彼の投稿欄ではいつもたくさんの人々とのやりとりが行われていた。
 例えば、『昨日の山芋侍、どうであったか?』というホイル大佐の投稿に対し『非常にストーリーのメッセージ性が社会派であった』『激しく同意』などのコメントがつくといった具合だ。さらには女の子と思われるアカウントからの熱烈なコメントもいくつか見られる。どうやらホイル大佐はモテるらしい。
 ちなみにこういったコメント欄は、自由に見ることが出来るので内緒話には不向きだ。マンツーマンのやりとりがしたい時には、ダイレクトメールと呼ばれる機能を使うのが鉄則となっている。

 ホイル大佐をフォローしてから、わたしもアニメの面白さには気付き始めている。ストーリーにキャラクター、様々な表情や動き、音楽と世界観。それぞれ全てに深みがあって、作り手の愛情をダイレクトに感じられるものが多くあるのだ。さらにアニメの奥深さを語る上で外せないのは、数々の名台詞。様々な解釈が出来る台詞が起用されていることも多く、ファンたちが各々の考えを投稿すれば、そこで意見交換などが行われたりもする。それはとても興味深かった。この世には知らない世界が存在する、ということをまざまざと見せつけられたような気分だ。
 そんな中でも、ホイル大佐の考察は異彩を放っていて惹きつけられた。原田くんってこんな考え方をするのかと、わたしは毎回唸らされる。だって普段の彼の言動はアニメのキャラクターに影響されている部分が多すぎて、原田くん自身がどういう人間なのかということが見えづらかったから。
 最初は眺めているだけでよかった。知らない世界を覗いて、こういう場所もあるのかぁなんて。だけどそのうち話してみたくなったのだ、
──他でもないホイル大佐と。
もしかしたらわたしは、もう立派なホイル部隊の一員なのかもしれない。

「さすがに“のんのん”のアカウントじゃまずいよね……」

 原田くんはわたしがホイル大佐をフォロ─していることに気付いていない可能性が高い。このアカウントで直接話しかければ、用心深い彼はわたしのことを警戒するようになってしまうかもしれない。万が一ブロックでもされてしまったら、この先ホイル大佐の投稿を見ることが出来なくなってしまうのだ。それだけはどうしても避けたい。
 そうしてわたしはついに、ホイル大佐に話しかけたいがためだけに、アニメ用のアカウントを作ったのだった。

【サリ子】
 サリーちゃんが大好きなアニメ初心者。色々教えてください。

 アカウント名はもちろんあのサリーから取ったもの。アイコンはインターネットで拾ってきた笑顔のサリーを設定する。うん、やっぱりかわいいなサリーちゃん。

 さあ、時は満ちた──。

 わたしは深く息を吐くと、震える指先で彼への初めてのメッセージを打ったのだった。