初恋は小学三年生。ただただぼーっと瞳に移していたテレビの画面が、急に輝きだしたように感じた。俗に言う、一目惚れというやつだ。ハルミーは、今でも俺の特別だ。
【ハルミー】
魔法戦隊ポリポリポピーの第二戦士。ふわふわの天然お嬢様。だけど実は超天才。ポリポリポピーのブレーン。
現実の女子になど、興味を持ったことはない。かわいいとかかわいくないとか、性格がいいとか悪いとか。誰が頭が良くて誰がスポ─ツが出来るとか。今までの小中学校、そしてここまでの高校生活を振り返っても、印象に残る女子というのは俺の中には存在しないのだ。みんな同じ顔、みんなへのへのもへじといった具合だ。
俺のことをキモいと言ったのがどこの誰だったのか、アニメの世界へ帰れと馬鹿にしたのはどこの誰だったのか、言葉や出来事は記憶していても”誰が”という主語の部分が抜け落ちている。実際問題、それが誰でも同じだった。友達でもなんでもない、誰も俺の人生には無関係な人間だ。
ふぅ、と細長い息をどんよりとしたグレーの空に吐き出す。SNSを開けば、公式アカウントからサリーのかわいいイラストがあがっていた。もともと俺は、ハルミーが好きだ。ふわふわしていて女の子らしい。やわらかい印象でおとなしいけれど頭の回転が速くて機転の利くハルミー。どちらかと言えば、サリーは魅力を感じないタイプのキャラクターだった。──はずなのに。
「サリ─、かわいいな……」
そう呟くと、ポツ、と小さな雨粒が上履きの先に落ちてシミを作る。もしかしたら、これから大雨になるかもしれない。それでもすぐに立ち上がる気になれないのは、壁を挟んだ背中合わせに、今は誰もいないからだろうか。
あの頃の自分に戻りたいなと思うこともある。外の世界には全く興味を持たなかったあの頃。アニメだけが自分の世界で、現実こそが仮の世界だと思い込んでいたあの頃。しかしその反面、もう戻れないとも思う。自分の人生に関わりのない人のせいで心を乱されるなんて、望んでいないのに。どうして今俺は、こんなにも何ともすっきりしない気持ちでいるのだろう。
怒りとも違う。悲しみとも違う。いや、花室さんが鈴木に連れ去られたことの何が問題なのだろうか。ふたりとも自分にとってはただのクラスメイトだ。別にふたりがうまくいくならば、それはそれで構わないはずだろう? それじゃあこのもやもやと渦巻く感情の正体は何かと聞かれれば、それは分からないとしか答えようがない。
アニメならば、こういう時に颯爽と飛び出していって彼女の腕を引き寄せるんだ。 「コイツの手を引いていいのは俺だけだ」と言って、ヒロインがきゅんとするというのが相場。なのにいざそういう場面に立ち会ってしまった俺は、ベランダに隠れ、じっと息を潜めていることしか出来なかった。
花室さんは俺にとって特別なんかではない。だけど、他のクラスメイトとは別であることは確かだ。だって彼女は俺の正体を知っている。俺がホイル大佐だと知っている。それだけで、他の人たちと”別”であると言うには十分だろう。
今考えてみれば、花室さんと隣の席になってから俺の中では小さな変化が生じていたのかも知れない。
他人のことなんて興味もない俺が、 鼻を高くして勘違いしている花室さんに対して嫌気を感じた。花室さんを裏で悪く言う女子たちの会話が耳に入って、チクチクと首の後ろあたりが痛くなった。逃げるなと言われ、心底腹が立った。
──花室さんのことが大嫌いだと思った。
そのどれもが、俺にとっては初めての経験だったのだ。誰かのことを、嫌いだと思ったのも、腹が立ったのも、イライラしたのも。
【ハルミー】
魔法戦隊ポリポリポピーの第二戦士。ふわふわの天然お嬢様。だけど実は超天才。ポリポリポピーのブレーン。
現実の女子になど、興味を持ったことはない。かわいいとかかわいくないとか、性格がいいとか悪いとか。誰が頭が良くて誰がスポ─ツが出来るとか。今までの小中学校、そしてここまでの高校生活を振り返っても、印象に残る女子というのは俺の中には存在しないのだ。みんな同じ顔、みんなへのへのもへじといった具合だ。
俺のことをキモいと言ったのがどこの誰だったのか、アニメの世界へ帰れと馬鹿にしたのはどこの誰だったのか、言葉や出来事は記憶していても”誰が”という主語の部分が抜け落ちている。実際問題、それが誰でも同じだった。友達でもなんでもない、誰も俺の人生には無関係な人間だ。
ふぅ、と細長い息をどんよりとしたグレーの空に吐き出す。SNSを開けば、公式アカウントからサリーのかわいいイラストがあがっていた。もともと俺は、ハルミーが好きだ。ふわふわしていて女の子らしい。やわらかい印象でおとなしいけれど頭の回転が速くて機転の利くハルミー。どちらかと言えば、サリーは魅力を感じないタイプのキャラクターだった。──はずなのに。
「サリ─、かわいいな……」
そう呟くと、ポツ、と小さな雨粒が上履きの先に落ちてシミを作る。もしかしたら、これから大雨になるかもしれない。それでもすぐに立ち上がる気になれないのは、壁を挟んだ背中合わせに、今は誰もいないからだろうか。
あの頃の自分に戻りたいなと思うこともある。外の世界には全く興味を持たなかったあの頃。アニメだけが自分の世界で、現実こそが仮の世界だと思い込んでいたあの頃。しかしその反面、もう戻れないとも思う。自分の人生に関わりのない人のせいで心を乱されるなんて、望んでいないのに。どうして今俺は、こんなにも何ともすっきりしない気持ちでいるのだろう。
怒りとも違う。悲しみとも違う。いや、花室さんが鈴木に連れ去られたことの何が問題なのだろうか。ふたりとも自分にとってはただのクラスメイトだ。別にふたりがうまくいくならば、それはそれで構わないはずだろう? それじゃあこのもやもやと渦巻く感情の正体は何かと聞かれれば、それは分からないとしか答えようがない。
アニメならば、こういう時に颯爽と飛び出していって彼女の腕を引き寄せるんだ。 「コイツの手を引いていいのは俺だけだ」と言って、ヒロインがきゅんとするというのが相場。なのにいざそういう場面に立ち会ってしまった俺は、ベランダに隠れ、じっと息を潜めていることしか出来なかった。
花室さんは俺にとって特別なんかではない。だけど、他のクラスメイトとは別であることは確かだ。だって彼女は俺の正体を知っている。俺がホイル大佐だと知っている。それだけで、他の人たちと”別”であると言うには十分だろう。
今考えてみれば、花室さんと隣の席になってから俺の中では小さな変化が生じていたのかも知れない。
他人のことなんて興味もない俺が、 鼻を高くして勘違いしている花室さんに対して嫌気を感じた。花室さんを裏で悪く言う女子たちの会話が耳に入って、チクチクと首の後ろあたりが痛くなった。逃げるなと言われ、心底腹が立った。
──花室さんのことが大嫌いだと思った。
そのどれもが、俺にとっては初めての経験だったのだ。誰かのことを、嫌いだと思ったのも、腹が立ったのも、イライラしたのも。