『ホイル大佐のお母さんって、すごく料理上手だよね』
『負けず嫌いで懲り性なだけさ』
『上手じゃなきゃあんなすごいお弁当作れないよ!』
『俺が小さい頃からああいうのが好きだっただけさ。ちなみに家ではミニチュアの家とか店とか作ってる』
『すごい! 本当に指先が器用なんだね。わたし不器用だから羨ましい』
『見せても構わんが』
『見せて!』
『一枚目は八百屋らしい。二枚目は花屋。三枚目はパン屋だと言っていた。四枚目はアニメストア』
『アニメストア! お母さんもアニメ詳しいの?』
『嫌でも覚えるって言われた』
『たしかに。笑』
 
「おはよう原田くん」
「おはよう花室さん」
「今日の朝ご飯何だった?」
「トーストと納豆と目玉焼きと飲むヨーグルト。花室さんは? どうせまたスムージーとか言うんじゃないの」
「残念でした! 今日は昨日の夕飯の残りの牛丼でした~」
「朝から消化能力が高いね」
「何とでも言って」

「ねえ原田くん、次の歴史のテストなんだけどどこが出ると思う?」
「まさかとは思うけど、花室さんヤマをかけようとしてる? テスト十分前に?」
「ちょっと昨日テレビ見たまま寝落ちしちゃって。へへ」
「いや、へへとかじゃない。アホなんじゃないの?」
「原田くん、歴史だけは得意なんだから教えてよ~」
「おや? 余計な言葉が聞こえた気がしたが」

 ホイル大佐とサリ子は毎日メッセージのやりとりをして、原田くんと花室野々花は毎日学校で会話をする。わたしは視聴覚室の教室内でお弁当を食べ、原田くんは視聴覚室のベランダでお弁当を食べる。
 こんな風に、わたしたちは友情を育んでいった。ホイル大佐の考察や言葉選びはやっぱりとてもおもしろくて興味深かったし、普通の高校生の原田くんは、ちょっと変わっていておもしろかった。
 お昼だって寂しくなんてない。ひとりだけどひとりじゃない。やっぱりわたしたちは、何となく合うのだと思う。話が合う。波長が合う。親友なんていうほどの密さではないかもしれないけれど、わたしたちは多分、もう友達だって言ってもいいくらいの仲にはなっている。──多分。
 気付けばわたしは、彼に色々なことを話すようになっていた。親と喧嘩した時、撮影で失敗した事、テストで悪い点数だった時。真剣に悩み落ち込んでいてもホイル大佐がくれる言葉はいつもそれを吹き飛ばしてくれるくらいに気楽だった。

『そんなの大したことじゃないさ』
『叫んできたら?』
『山芋侍に成敗してもらえばいい。必殺ヤマイモ斬り! ニンニン』
『余計なこと考える暇があるなら公園に行って走ってきた方がいい。そしたら眠れるさ』

 こっちは本気で落ち込んでるのに! と思うこともあったけれど、そんな彼にだからこそ話すことが出来たというのもまた事実。実際、それらは彼の言う通り実はたいしたことではなく、一晩寝れば自分の中で解決するようなことばかり。──いや、そう思えるようになったのはわたし自身が変わったからだ。どんなに落ち込んでも、悲しんでも悔しがっても、必ず朝はやってくる。泣き腫らした目であっても明るく昇る太陽の光を浴びれば自然とこう思えるようになったのだ。
「まあいっか」って。