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「のん、どこ行くの?」
「ちょっと後輩のところに。相談があるみたいで」
お弁当箱を片手にニコリと笑えば鈴木くんはちょっとほっとしたように、そっかと笑った。
昼休みになると、わたしはこの窮屈な教室を一人で抜け出す。校舎からは死角になるような小さな中庭で、一人きりでお昼を食べる。この習慣は今でも変わらない。
しかし今日はひとつだけ気がかりなことがあった。それは先週から違うクラスのカップルがそこでお昼を食べ始めたということだ。付き合いたてらしく初々しい雰囲気が微笑ましい反面、自分は明らかに邪魔者だと感じていた。そろそろ別の場所を探す頃なのかもしれない。
一人になれる場所、と想像してパッと出てくるのは非常階段、屋上につながる階段、旧校舎側のさびれた廊下。うーん、なんだかどれもいまいち。もう教室で食べたっていいのかもしれないけれど、なんとなくあそこでお昼休みをひとりで過ごす気にはなれない。原田くんが許してくれるならばふたりで教室で食べてもいいけど、きっと彼は嫌がるだろう。どうしようかな、と考えながら廊下を歩いているとスマホが震えた。
『視聴覚室』
たった一言。だけどそれは、ホイル大佐からのメッセージだった。
視聴覚室? 学校の三階の端に位置する滅多に使わない教室を思い浮かべる。そこへ来いということだろうか。そういえばお弁当を見せてくれるって言っていた。階段を降りようとしていた足を止めてくるりと回れ右をする。
気付けばわたしは、鼻歌を歌っていた。