それからというもの、SNSのチェックはわたしの日課となった。メインはもちろんホイル大佐の投稿チェック。時に彼は、自分で描いた絵なども投稿していた。味があるといえば聞こえはいいが、要するに絵を描くのは得意ではなさそうだった。それでも彼がファンアートを描けば、ホイル部隊たちはこぞって“いいね”と賞賛のコメントを飛ばす。中には彼に対し、下手くそだとか早くやめろだなんていう罵倒の言葉が投稿されていることもあるけれど、ホイル大佐に気にする素振りは見られない。
わたしはいつも、気にしすぎてしまうタイプだ。ブスやデブなんて言われた日には、もうドクモなんてやめてやる! と言いたくなってしまうかもしれない。
ホイル大佐は、強いのだ。そういう面も含めて、ホイル大佐の世界はわたしにとって刺激的で、そして自由だった。彼は何にも囚われていない。彼は自分の目を信じている。
彼は学校で起きた出来事を投稿することもたまにあって、同じ事はわたしから見たら特筆するようなことではなかったのに、彼の手にかかればあっという間におもしろい出来事になる。そういった日常の投稿にも、どこか必ずアニメとの接点が作られているからそちらにも興味が生まれ、気付けばわたしはいくつかのアニメを語れるほどには好きになっていた。
こんな風にわたしがホイル大佐をより深く知っていく一方で、原田くんはわたしがホイル大佐をフォローしていることについては全く触れてこない。フォローされていること自体に気付いていないのか、それとも敢えて話題にしないのか。原田くんは自分がホイル大佐であることを周りには知られたくないのかもしれない。そう思うと、わたしからその話題を振ることは躊躇われたのだった。
そんなある日、わたしのプリントが机の上から滑り落ちた。それは学校生活を送っていればよくある日常のほんのひとコマ。しかしそれを拾い上げた彼は、聞き慣れない名前を口にした。
「落ちたよ、サリー」
──ん? サリー……?
思考回路はぴたりと止まり、代わりに頭の中の映写機がホイル大佐のタイムラインを急ピッチで巻き戻しながら映し出す。それはまるで検索画面のようだ。知っている、見覚えがあるその名前。どこにその正体があるのだろうか。
サリー、サリー、サリー……──。
必死で記憶の糸を手繰り寄せている横で、その言葉を発した本人は全く関係のない侍姿のキャラクタ─を描いている。もしかしたらサリーと口にしたこと自体、本人は気付いていないのかもしれない。
「ねえ、今、サリーって」
「ニンニン」
意を決して言葉にしてみるも原田くんには現在、自身が描いているキャラクター、山芋侍が降臨しているらしい。脳内タイムラインの限界を知ったわたしは、諦めて机の下でスマホを開いた。
【サリー キャラクタ】検索。
「アッ」
小さく声が出てしまい、自分の口を両手で抑えた。逆隣の鈴木くんが不思議そうにこちらを見たので、愛想笑いをして誤魔化した。原田くんはお絵かきに夢中だ。
【サリー】
魔法戦隊ポリポリポピーの第三戦士。美人でお姉さん的存在。 テーマカラーはマスカットグリーン。
説明書きの下には、スタイル抜群の大きな目が特徴的な美少女のイラストが表示されていて、思わず心の中で小躍りをする。原田くんが言ったサリーって、このサリーのこと? 原田くんの中でわたしはサリーに似ているということなの? こんなにかわいく映っているってこと? そんな似てるかな? たしかに目の大きなところとか、鼻筋が通っているところは似ていると言われれば似ているかも。やだ、なんでこんな嬉しいんだろう。
思わず口元がにやけそうになって慌てて教科書で顔を隠した。ところが説明はそれだけで終わらなかった。
【性格に多少の難有り】
こんな追記を見つけたわたしは、ゴンっと机におでこを落とす。そのあと一日、ショックから立ち直れなかったというのはここだけの話だ。
わたしはいつも、気にしすぎてしまうタイプだ。ブスやデブなんて言われた日には、もうドクモなんてやめてやる! と言いたくなってしまうかもしれない。
ホイル大佐は、強いのだ。そういう面も含めて、ホイル大佐の世界はわたしにとって刺激的で、そして自由だった。彼は何にも囚われていない。彼は自分の目を信じている。
彼は学校で起きた出来事を投稿することもたまにあって、同じ事はわたしから見たら特筆するようなことではなかったのに、彼の手にかかればあっという間におもしろい出来事になる。そういった日常の投稿にも、どこか必ずアニメとの接点が作られているからそちらにも興味が生まれ、気付けばわたしはいくつかのアニメを語れるほどには好きになっていた。
こんな風にわたしがホイル大佐をより深く知っていく一方で、原田くんはわたしがホイル大佐をフォローしていることについては全く触れてこない。フォローされていること自体に気付いていないのか、それとも敢えて話題にしないのか。原田くんは自分がホイル大佐であることを周りには知られたくないのかもしれない。そう思うと、わたしからその話題を振ることは躊躇われたのだった。
そんなある日、わたしのプリントが机の上から滑り落ちた。それは学校生活を送っていればよくある日常のほんのひとコマ。しかしそれを拾い上げた彼は、聞き慣れない名前を口にした。
「落ちたよ、サリー」
──ん? サリー……?
思考回路はぴたりと止まり、代わりに頭の中の映写機がホイル大佐のタイムラインを急ピッチで巻き戻しながら映し出す。それはまるで検索画面のようだ。知っている、見覚えがあるその名前。どこにその正体があるのだろうか。
サリー、サリー、サリー……──。
必死で記憶の糸を手繰り寄せている横で、その言葉を発した本人は全く関係のない侍姿のキャラクタ─を描いている。もしかしたらサリーと口にしたこと自体、本人は気付いていないのかもしれない。
「ねえ、今、サリーって」
「ニンニン」
意を決して言葉にしてみるも原田くんには現在、自身が描いているキャラクター、山芋侍が降臨しているらしい。脳内タイムラインの限界を知ったわたしは、諦めて机の下でスマホを開いた。
【サリー キャラクタ】検索。
「アッ」
小さく声が出てしまい、自分の口を両手で抑えた。逆隣の鈴木くんが不思議そうにこちらを見たので、愛想笑いをして誤魔化した。原田くんはお絵かきに夢中だ。
【サリー】
魔法戦隊ポリポリポピーの第三戦士。美人でお姉さん的存在。 テーマカラーはマスカットグリーン。
説明書きの下には、スタイル抜群の大きな目が特徴的な美少女のイラストが表示されていて、思わず心の中で小躍りをする。原田くんが言ったサリーって、このサリーのこと? 原田くんの中でわたしはサリーに似ているということなの? こんなにかわいく映っているってこと? そんな似てるかな? たしかに目の大きなところとか、鼻筋が通っているところは似ていると言われれば似ているかも。やだ、なんでこんな嬉しいんだろう。
思わず口元がにやけそうになって慌てて教科書で顔を隠した。ところが説明はそれだけで終わらなかった。
【性格に多少の難有り】
こんな追記を見つけたわたしは、ゴンっと机におでこを落とす。そのあと一日、ショックから立ち直れなかったというのはここだけの話だ。