カランとコップに入っていた丸い氷が音を立てる。

「原田くん、本当にごめんなさい。それから、ありがとう」

 花室さんがもう一度、謝罪と感謝を言葉に乗せる。二極していた自分の気持ち。今ならばどちらが真の想いなのか分かる気がする。

「俺も、申し訳なかった」

 不思議なくらいすんなりと、謝罪の言葉が滑り出る。
 謝るのは簡単で、許すことのほうがずっとずっと難しい。そんな思いは、俺の自己防衛、自分勝手な言い分だ。本当はもう、とっくのとうに許していたんだ。そんな自分を認めたくなかっただけなんだ。
 クラスで孤立する彼女に手を差し伸べたいと思いつつ、ずっと後ろめたい気持ちがあった。俺にそんな権利があるのか、そんな資格はあるのか。一度彼女を拒絶した自分が彼女を助けたいだなんて、今更そんなことを許されるとも思えなかった。それに、きっと俺は謝りたくなかったのだ。
 謝るということは、実はすごく難しい。許してもらえるかもわからないのに、自分の非を認めて相手に伝える。それって、そうそう簡単なことじゃない。だけど、もしもその人との関係をきちんと続けていきたいと願うのならば、逃げてはいけないのかもしれない。

「ブロック、取り消してくれる?」

 鼻を赤くした花室さんがこちらを伺うような表情で笑うから、俺もつられて笑ってしまうんだ。
 ばかだなあ、花室さん。もうとっくの昔に俺は、きみへのブロックは取り消しているのさ。