マスカットジュースが期間限定で出ているということは、先週SNSで知った。マスカットといえばサリーだ。その時にふと思った。花室さんはこのドリンクを飲むのだろうかと。
「あの、全然違うから! あの! つけてきたとかそういうんじゃないから!」
放課後のドーナツ屋なんて、初めて足を踏み入れた。俺が放課後に向かうのはアニメストアか図書館か本屋か。誰かと一緒に何かを食べるなんて、したことがなかったから。
目の前の花室さんは不自然なほどに姿勢を下げ、クリアファイルを盾のようにしながら慌てて言葉を続けている。まったく、少し落ち着いてほしい。だいたい俺の方が彼女より後にここに来たのだ。後をつけてきたわけではない、と言い訳すべき立場はこの場合俺の方だ。
それでも、見たことがないほどに動揺する花室さんの姿を見るのは悪くない気もする。なんだ、人間らしいところもあるんじゃないかと思えたからかもしれない。
俺はひとつ息をつくと、彼女の向かい側の椅子をひいて腰を下ろした。すると、今度は凄い勢いでファイルから彼女の顔が飛び出てくる。まるでモグラ叩きのモグラだ。
「あ、あの……そこ、わたし待ち合わせが」
「うん知ってる」
「え、あの」
「はじめまして。ぴかりんだピカ」
さて──。花室さん、きみはどんな顔をするのだろうか。
驚いて、それから失望する? だまされたって憤慨する? どちらにせよ、いい気味だ。
やられたらやり返す。
これが山芋侍の信念だ。
放っておけばいいと思った。自業自得だとそう思った。すべては自分の行いから起きた出来事だ。現に俺も、彼女の勝手な振る舞いで心を乱されたひとりなのだ。
──それなのにどうして俺は、こんなことをしているのだろうか。
「あの、全然違うから! あの! つけてきたとかそういうんじゃないから!」
放課後のドーナツ屋なんて、初めて足を踏み入れた。俺が放課後に向かうのはアニメストアか図書館か本屋か。誰かと一緒に何かを食べるなんて、したことがなかったから。
目の前の花室さんは不自然なほどに姿勢を下げ、クリアファイルを盾のようにしながら慌てて言葉を続けている。まったく、少し落ち着いてほしい。だいたい俺の方が彼女より後にここに来たのだ。後をつけてきたわけではない、と言い訳すべき立場はこの場合俺の方だ。
それでも、見たことがないほどに動揺する花室さんの姿を見るのは悪くない気もする。なんだ、人間らしいところもあるんじゃないかと思えたからかもしれない。
俺はひとつ息をつくと、彼女の向かい側の椅子をひいて腰を下ろした。すると、今度は凄い勢いでファイルから彼女の顔が飛び出てくる。まるでモグラ叩きのモグラだ。
「あ、あの……そこ、わたし待ち合わせが」
「うん知ってる」
「え、あの」
「はじめまして。ぴかりんだピカ」
さて──。花室さん、きみはどんな顔をするのだろうか。
驚いて、それから失望する? だまされたって憤慨する? どちらにせよ、いい気味だ。
やられたらやり返す。
これが山芋侍の信念だ。
放っておけばいいと思った。自業自得だとそう思った。すべては自分の行いから起きた出来事だ。現に俺も、彼女の勝手な振る舞いで心を乱されたひとりなのだ。
──それなのにどうして俺は、こんなことをしているのだろうか。