「のん、最近元気ない? 大丈夫?」

 今日は放課後に撮影に呼ばれており、美香ちゃんと一緒に出版社のスタジオに向かっている。ガタンガタンと揺れる電車のつり革につかまるわたしたち。出版社までは電車で三十分ほどだ。

「そんなことないよ、大丈夫」

 隣のクラスの美香ちゃんは、わたしがクラスで孤立している状況を知らずにいる。わたしのクラスの元親友たちに常に囲まれている美香ちゃんだが、彼女たちもわざわざわたしの話題を出すことはしないのだろう。
 確かに最近のわたしは、以前よりも影が薄くなったかもしれない。大きな声で話すこともないし、どちらかと言えば存在を無視されているわけなので当然と言えば当然なのだけれど。
 最初の頃こそ落ち込んだわたしだったけれど、自分の間違いを受け入れられるようになってからは反って気が楽になった。そんなふうに自分の非を認めて受け入れられたのは、ぴかりんのおかげだ。
 今やわたしはクラスの中心でもなんでもない。誰もわたしのことを羨んだり注目することもなくなったけれど、それはなんだか深く息をつける感覚と似ていた。
“ただのドクモのくせに”と言われ憤っていたこともあったけれど、“ドクモだから”と肩ひじを張っていたのはわたしの方だったみたいだ。そのことに気付いた時は自分の幼さと浅はかさに辟易して自己嫌悪に陥った。しかしそれを越えた途端、肩の力がふっと抜けたのだ。
 どうして大人ぶる必要があったのかな。なんで自分は特別だなんて思う必要があって、周りからもそう見られないといけないって思い込んでいたんだろう。このままのわたしでよかったのに。
 中学までの花室野乃花はもっと地味で、落ち着いた空間が大好きな普通の女の子だった。体育は苦手で休み時間も教室で過ごしてばかり。特別に顔がかわいかったわけでもスタイルがよかったわけでも目立つタイプだったわけでもない。平凡な、どこにでもいる女子中学生だったし、それに不満を持ったこともなかった。
 そんなわたしがドクモを始めたのは高校入学前の春休み、街で一度スナップを撮られたのがきっかけだ。カメラマンさんと一緒にいた編集の西山さんが声をかけてくれて、それからたまに撮影に呼ばれるようになった。
 そこで会う子たちはみんなかわいくおしゃれでキラキラしていて。自分が場違いに思えて居心地が悪かったのを昨日のことのように覚えている。
 その居心地の悪さをなんとかしたくて、彼女たちと並んでも恥ずかしくないようにと努力をした。努力と言えば聞こえがいいが、実際は違ったのかもしれない。それは、見栄を張るためにあがいていただけだったのだろう。
 そうしていくうちにわたしは見失っていったのだ。本来のわたし自身を。
 趣味は? と聞かれれば、買い物とコスメ集めだなんて答えた。しかしまだ高校生。一般家庭のうちなんておこづかいもたかが知れているし、バイトは禁止だし、たいした買い物なんて出来ない。
 ハマっている食べ物はと聞かれればグリーンスムージーなんて答えていたけど、本当はおばあちゃんの苦い苦い青汁を我慢して飲んでいる。
 今までに付き合った人数は? これには含みを持たせて「内緒!」なんて答えてはいるけれど、本当は誰とも付き合ったことなんてない。
 どれもこれも、本当にくだらない嘘だなと今ならそう思う。だけどその時は必死だった。ステイタスのことばかり考えていたんだ。
 ──ここは、そういう世界だった。