変化は、火を見るよりも明らかだった。
 休み時間が来るたびにわたしの周りを囲っていた彼女たちは、チャイムが鳴ると同時にきゃっきゃと声をあげながら隣のクラスへと向かう。毎日のようにわたしに声をかけてくれた放課後には美香ちゃんの周りに集まり、プリクラを撮りに行こうだとかスイーツを食べに行こうと声をかける。スイーツはちょっと、と彼女が言えば、やれカラオケはどうだとかやれスムージーのお店があるよとか颯爽と代替え案を提示する。
 そして美香ちゃんが「のんと約束しているから」と言えば、そっかぁと彼女には残念そうな笑顔を向け、そのあとにこっそりとわたしを睨むのだ。
 誰に何を言われたわけじゃない。原田くんに言われたように、大嫌いと言われたわけでもない。それでも人の気持ちというものの軽薄さにわたしの心は毎日揺られ、倒れる寸前のところをどうにか保っている状態だった。
 きっとみんなは、わたしのことが好きだったわけではなかったのだ。わたしと仲良くしたかったのは、美香ちゃんのサインがほしいとか、もしかしたら何かいいことがあるかもしれないとかそういう期待をしていたからだ。
 みんなが仲良くなりたかったのは、普通の花室野々花ではない。読者モデルをしている花室野々花と仲良くなりたかったんだ。
 そんなことに今更ながら気付くなんて、本当にばかみたいだ。
 最初こそ読者モデルという肩書きはみんなにとってキラキラとして見えていたのだろうが、同じ学校に本物のモデルの美香ちゃんが転入してきたとなれば話は変わってくる。わたしなんかを経由しなくたって直接美香ちゃんと話せる。サインをもらえる。遊びに行けるし仲良くなれる。
 たかがドクモのわたしのことなんて、その雑誌の読者ですらどれだけの人が知ってくれているか怪しい。一方で美香ちゃんはティーンモデルの星だ。そんな彼女が身近に現れたら、誰もが近付きたいと願うのは当然のことだとは思う。だけどその結果がわたしを遠ざけることになるという理屈はいまいち腑に落ちなかった。

──十代とはとても繊細で軽薄な愛おしい時期。

 以前西山さんが口にしていたそんな言葉を思い出す。大人である西山さんは、こういうこともこの年代特有のものだと言いたかったのかもしれないけれど、そんなの納得できなかった。何歳であっても、人を傷つけていいわけがない。若かろうが年を重ねようが、自分の意見をきちんと持つべきだと思う。
 みんなが好きならば自分も好き。
 みんなが嫌いならば自分も嫌い。
 そんなの、自分がないのと同じじゃないか。
 そんな風にわたしが自分の正義を心の中で語ったところで、他人の気持ちを変えることは出来ない。クラスの中でもカースト上位だった親友たちがわたしを遠ざければ他の子達もなんとなくわたしのことを敬遠し、あっという間にわたしはクラスで孤立していった。
 それはもうおもしろいほどに明らかに──。わたしは空気と同じ存在になったのだ。