「えっ、美香ちゃん!?」
キラキラとホログラムがその空間だけ舞っているようで、それはどこかスノードームを彷彿させる。日常的な景色の中、そこだけくっきりとした色彩をもつように教室に入って来た美香ちゃんは、ぐるりと周りを囲む輪を抜け出してわたしに抱きつく。ふわりと甘いコロンの香りが鼻先で転がった。
「もう大丈夫なの? 本当心配したんだからね!」
眉を下げる美香ちゃんも、やっぱりかわいい。もう大丈夫だよと頷きかけて、いやいやいやとわたしは自分の体を一歩引いた。
どうして美香ちゃんがここに?
「それより、どういうこと? なんで美香ちゃんがうちの学校にいるの?」
改めて見れば、彼女はきちんとわたしと同じ制服を着ているではないか。美香ちゃんはふふっと肩を揺らして無邪気に笑った。
「サプラーイズ! 転校生ですっ!」
そう言って両手を大きく広げて見せた。
美香ちゃんの家は都心から少し離れたところにある。スタジオまで片道二時間半かかるというのは仲良くなってすぐの頃、彼女が話してくれたことだ。大変だけどまだ独り暮らしは出来ないしとよく零していて、人気モデルにも悩みがあるのだなと思ったのを覚えている。さらに、美香ちゃんの通っていた高校は地域でも名の知れた進学校で、彼女の芸能活動に対して難色を示していたそうだ。
そんなタイミングで美香ちゃんのいとこが上京することになり、一緒に暮らすという運びになったということだった。
「ここに決めたのは、芸能活動や課外活動にも寛容だって聞いたから。でも一番の決め手は、のんが通ってる学校だからだよ!」
美香ちゃんはそう言うと、眩しいくらいの笑顔を向ける。それから、クラスまでは同じになれなかったけど、とちょっとだけ口を尖らせた。
同じ制服を着て、同じ学校の中にいて、いつでも会えて、たくさん話せる。憧れだった美香ちゃんと、こんな風に仲良くなれる日が来るなんて思ってもみなかった。
「転校初日にサプラーイズってこのクラスに来たらさ、のん休みだって言うんだもん! 早く来ないかなって毎日毎日このクラス覗きに来てたんだよ?」
ねー? と彼女が同意を求め、それに応えるのはわたしの親友たち。美香ちゃんに憧れて、美香ちゃんのサインが欲しいといつも言っていた彼女たち。
そうこうしているうちにチャイムが鳴り、美香ちゃんは不満そうにしながらも隣のクラスへと帰って行った。
途端に戻る、今までと同じ教室の風景。みんなもバラバラと席に戻っていく。その時にわたしは、小さく息を吐いたのだ。
わたしが休んでいたほんの数日間。その短い間に大きな大きな変化が起きていた。
美香ちゃんの転校。そして──。
そしてわたしは、気付いていたのだ。
美香ちゃんを取り囲んでいたわたしの親友たちは、誰ひとりとして、わたしへと声をかけてこなかったことに。
──ちゃんとわたしは、気付いていたのだ。