◇
いつもの通学路。見慣れた制服。歩きなれた道。学校が近づくにつれ、どきんどきんと心臓は大きく揺れて息苦しい。それはもちろん、大嫌いと言われた原田くんにまた会うこと、それから久しぶりにクラスメイトと顔を合わせることが理由だと思う。
前者は置いておいても、クラスメイトとのことはただの杞憂だ。わたしは何日か休んでいただけで、今まで一緒に過ごしてきた時間の方がずっと長い。みんな心配してくれていたし、後半は返事をさせるのも悪いからなどと気を遣って連絡をしてこなかったのかもしれない。
そんなことを考えていればあっという間に教室の前に到着。ふぅ、と小さく深呼吸をする。
──うん、大丈夫。
ガラリ。引き戸を開ければ、そこにはいつも通りの教室が広がっていた。
「のん! 熱下がってよかった〜! 大変だったな」
最初にわたしを見つけてくれたのは、窓際で仲間たちと話していた鈴木くん。彼はクラスの中で唯一、一日も欠かさず連絡をくれていた人だった。
「ありがとう、心配かけてごめんね」
そう言いながら隣へとやって来た鈴木くんに違和感を覚える。だって彼は、実に自然な様子で原田くんの席に座ったのだから。
「えっと……」
戸惑ったわたしの様子を見た彼は、ああ、と笑顔で頷くと説明を始めた。
わたしが休んだ初日、原田くんは一番前の席──それはつまり、ここから一番遠い席だ──に移動したいと先生に言ったそうだ。最前列なんて誰もが嫌に決まっている。彼の要望は簡単に聞き入れられ、それまで最前列にいた川村くんという男の子が原田くんと席に変わることになったということだった。
「そんでさ、だったら俺がのんの本当の隣の席になりたいなーってことで、川村と変わってもらったってわけ」
嬉々とした表情で話す鈴木くん。しかしわたしの意識は、遥か向こうで背中を丸めて絵を描いているのであろう原田くんの後ろ姿へといっていた。
わたしを拒み続けると言った原田くん。わたしの隣の席から離れることを選んだのは、実に彼らしい選択だ。そう言い聞かせるもやはりずきりと胸の辺りは痛み、わたしはゆっくりと視線を逸らした。
この毎日に慣れていかなきゃいけない。いや、むしろ前は原田くんがどこにいようと関係がなかったじゃないか。前に戻る、たったそれだけのことだ。
──と、普段ならば登校と同時に声をかけてくる親友たちが教室にひとりもいないことに気がついた。この時間はいつもみんなでおしゃべりを楽しんでいたはず。それなのに、みんなはどこにいるんだろう。
購買? もしかしてわたしが久しぶりに学校に来たからサプライズを用意してくれてるとか?
廊下に出て様子を見てこようかと立ち上がったときだ。
「のーんーっ!」
聞き覚えのある、しかしここで聞こえるはずのない声が廊下の方からわたしの名前を呼んだ。
そこにいたのは、わたしの友人らに囲まれながらもこちらに手を振る美香ちゃんだったのだ。
いつもの通学路。見慣れた制服。歩きなれた道。学校が近づくにつれ、どきんどきんと心臓は大きく揺れて息苦しい。それはもちろん、大嫌いと言われた原田くんにまた会うこと、それから久しぶりにクラスメイトと顔を合わせることが理由だと思う。
前者は置いておいても、クラスメイトとのことはただの杞憂だ。わたしは何日か休んでいただけで、今まで一緒に過ごしてきた時間の方がずっと長い。みんな心配してくれていたし、後半は返事をさせるのも悪いからなどと気を遣って連絡をしてこなかったのかもしれない。
そんなことを考えていればあっという間に教室の前に到着。ふぅ、と小さく深呼吸をする。
──うん、大丈夫。
ガラリ。引き戸を開ければ、そこにはいつも通りの教室が広がっていた。
「のん! 熱下がってよかった〜! 大変だったな」
最初にわたしを見つけてくれたのは、窓際で仲間たちと話していた鈴木くん。彼はクラスの中で唯一、一日も欠かさず連絡をくれていた人だった。
「ありがとう、心配かけてごめんね」
そう言いながら隣へとやって来た鈴木くんに違和感を覚える。だって彼は、実に自然な様子で原田くんの席に座ったのだから。
「えっと……」
戸惑ったわたしの様子を見た彼は、ああ、と笑顔で頷くと説明を始めた。
わたしが休んだ初日、原田くんは一番前の席──それはつまり、ここから一番遠い席だ──に移動したいと先生に言ったそうだ。最前列なんて誰もが嫌に決まっている。彼の要望は簡単に聞き入れられ、それまで最前列にいた川村くんという男の子が原田くんと席に変わることになったということだった。
「そんでさ、だったら俺がのんの本当の隣の席になりたいなーってことで、川村と変わってもらったってわけ」
嬉々とした表情で話す鈴木くん。しかしわたしの意識は、遥か向こうで背中を丸めて絵を描いているのであろう原田くんの後ろ姿へといっていた。
わたしを拒み続けると言った原田くん。わたしの隣の席から離れることを選んだのは、実に彼らしい選択だ。そう言い聞かせるもやはりずきりと胸の辺りは痛み、わたしはゆっくりと視線を逸らした。
この毎日に慣れていかなきゃいけない。いや、むしろ前は原田くんがどこにいようと関係がなかったじゃないか。前に戻る、たったそれだけのことだ。
──と、普段ならば登校と同時に声をかけてくる親友たちが教室にひとりもいないことに気がついた。この時間はいつもみんなでおしゃべりを楽しんでいたはず。それなのに、みんなはどこにいるんだろう。
購買? もしかしてわたしが久しぶりに学校に来たからサプライズを用意してくれてるとか?
廊下に出て様子を見てこようかと立ち上がったときだ。
「のーんーっ!」
聞き覚えのある、しかしここで聞こえるはずのない声が廊下の方からわたしの名前を呼んだ。
そこにいたのは、わたしの友人らに囲まれながらもこちらに手を振る美香ちゃんだったのだ。