「俺のSNSを見つけて私生活を覗き見てさ。偽名を使って近づいて、散々甘い言葉や偽物の弱い部分を見せつけて。そうやって人の心を揺さぶって楽しんでいたんだろう? 本当に、スクールカースト上位のきみたちって悪趣味だな」
違う──。違う、そんなんじゃない。わたしは、本当にホイル大佐に癒されて、元気をもらっていた。サリ子は、わたしがわたしらしくいられる場所だった。周りの目を気にせず、イメージなんて考えず、自分が自分らしくいられる場所。そしてホイル大佐は、そんなわたしの唯一の友達だったのだ。
しかし彼の想いを知った今、この出来事がどれほどに彼を傷つけ苦しめたかを知った今、わたしはひどく打ちのめされていた。
違うと言えばいいのかもしれない。だけどどうやったら信じてもらえるのか。その答えがどうしても分からない。わたしが何を言っても、泣いて訴えても、わたしが犯した過ちはなくならないのだ。
「そんなんじゃない……」
小さな声でそう言うのが精いっぱいだ。悲しくて、悔しくて、だけど悪いのは自分だから何も言えなくて。ぱた、と揺れるスカートに涙が一粒転がり落ちた。
「モデルって演技もうまいんだね」
彼は、なんて意地悪なのだろうか。馬鹿じゃないの。演技がうまいのは女優でしょう。
「これからも、わたしを拒み続けるの?」
そう聞けば、当然じゃないかと原田くんは笑う。嫌な笑顔。意地の悪い笑顔。憎しみの笑顔。
「何度だってブロックするし、何度だって無視をするさ」
きっと彼は、変わらない。何を言ったとしても、何も言わなくても。
わたしは泣き顔を隠しもせずに顔をあげて彼を見据えた。
「原田くんは……」
彼は相変わらず軽蔑するようにわたしを見ている。
「ううん、ホイル大佐は本質をきちんと見てくれる人じゃなかったの……?」
わたしが知っているホイル大佐は、あたたかくて優しくて、本物のわたしを見てくれていたはずだ。それが一瞬にして、わたしを敵視する人になるなんて。しかし彼はまた鼻で笑う。
「俺だってサリ子がまさか花室さんだったなんて、しかもここまで性格が歪んでいるだなんて知らなかったさ」
勝ち誇った表情で一番嫌なところを真正面からついてくる原田くんからは、もはやホイル大佐の面影は見られない。
「ホイル大佐ではなくて、原田くんにひとつだけ言わせてほしい」
それでもわたしは伝えたかった。強い劣等感と周りへの不信感を抱え孤独な世界に引きこもってしまった彼に、どうしても伝えたかった。
逃げないで、向き合って。逃げないで、あなたの周りの人間から。あなたと向き合いたいと思っている、わたしから。
目の前の原田くんは、さらに険しい顔をしてわたしを見ている。まるで嫌いな虫でも見るかのように。
「きみの話を聞くつもりも時間もない。俺がどうしようときみには関係ないだろ」
確かにその通りなんだろう。彼が一人でいようといまいと、わたしには関係のないことだ。それなのにどうしてこんなに固執してしまうのか。
自分で自分に問いかける。もしもホイル大佐が原田くんではない誰かだったならば、きっとすべてを簡単に諦めていただろう。こんな風に必死に追いかけたりしなかった。それじゃあ、どうしてこんなことをしているのかって、そんなのは──
「原田くんだからだよ」
そう。原田くんだからだ。
「原田くんのことが、人として好きだからそう思うの」
生まれてこの方、誰かに告白なんてしたことがない。人として、なんて言葉をわざわざ入れたのは無意識に生じた花室野々花の防衛本能だったのかもしれない。
むかつく。腹が立つ。こんなに意地悪な原田くんに、どうして本音を言わなきゃいけないの。
むかつく。腹が立つ。だけど──、好きなんだ。
原田くんはすっと無表情になると、空を一度仰いでから口を開いた。
「花室さん。きみのそういうところが、俺は本当に大嫌いなんだ」