◇
絵を描いたり歴史漫画を読みなおしてみたり、そう過ごしていればあっという間に一日は終わっていた。そろそろ帰宅してもいい時間だろう。学校から家に連絡は行ったりしないだろうか。いや、母親から何の連絡もないってことは、きていないということだ。家族の連絡先しか登録されていないスマホはまだ一度も着信を知らせていない。
今日は家に帰ったら、ファンタジーボウルを見直そう。あの話は一番の癒しアニメだ。
そんなことを考えながら図書館を出れば、空は目に痛いくらいの茜色に染まっていた。この時期の夕方というのはなんだか独特のにおいがして、やたらと胸が締め付けられる。小さい頃からだ。別に何を思い出すわけでもないのに、どうしてこんな気持ちになるのだろう。
そうして駅の改札を目指し広場を通過した時だった。
「原田くんっ!」
大嫌いなひとの声が聞こえた。
「……本当に、ごめんなさい」
泣きそうな顔をした花室さんが、そこにいた。
──花室さん、そういうとこだよ。きみのそういうところが俺は本当に──、本当に大嫌いなんだ。