ブブッと再びスマホが響く。

『花室です』

 また新しいアカウントを作ったようだ。懲りないな、ブロックブロック。するとまた数分後に同じメッセージが違うアカウントから送られてきた。花室さんは、俺が思う何倍も何十倍も、しつこかったのだ。
 今までもSNS上でこういう人がいなかったわけではない。ブロックしたあとに別のアカウントを作って、なんでブロックなんかしたんだ、自分もお前のことなんか大嫌いだったせいせいした、わざわざブロックありがとうwなんて罵声や皮肉を投げてくるやつらもいた。もちろん指先ひとつでブロック。息をするのと同じくらい簡単だ。だけど、こんなに何度も何度も、いくつもいくつもアカウントを変えて送られてきたのは初めてだった。根性があると言えば聞こえはいいのかもしれないが、これはただの異常だと思う。ネットストーカー予備軍。なんにせよ、異常だ。
 異常ドクモ。あ、語呂いいな。
 明日学校に行ったら誰かと席を替わってもらおう。俺が教室を出る時にクラスはざわついていたし花室さんは泣いていた。きっとあの後クラスでは、俺を悪者としたストーリーが勝手に出来上がったんだろう。主演花室野々花、演出花室野々花ってさ。
 目立つことは嫌いなのに、彼女のせいでクラスの注目を浴びてしまった。頭が痛い。本当に全ては花室さんのせいだ。
 面倒になりSNSの通知を切った俺は、シャープペンシルを握ってノートに向かう。そして一心不乱に紙の上で0.5ミリの芯を滑らせ続けたのだった。