なんだか頭がむしゃくしゃする。いや違う、みぞおちのあたりかな。よく分からん。よく分からんけど、なんだかどこかがむしゃくしゃする。
 人生で初めて、学校をさぼってしまった。けれどもう、あの場所にいたくなかった。
 ──サリ子が、あの花室さんだったなんて。
 ぐしゃぐしゃと自らの髪の毛を掻き混ぜて、どこにもやり場のない思いを蹴散らした。
 サリ子が自分と同い年くらいだとは思っていたし、もしかして同じ学校に、なんて思ったことがなかったわけではない。まあそんなの、それこそアニメの世界だから、ありえないだろうとは思っていたけど。それでも可能性はゼロじゃなかった。
 アニメの世界だったらこうだ。SNSで出会ったふたりはそこで意気投合する。ふたりともお互いに実の姿なんか知らない。そして現実の世界でも巡り合い、近づく距離の中で何かがおかしいと気付くんだ。共通することが多すぎるって。それで姿を互いに現して驚く。なんだ、俺たち出会っていたんじゃないかってさ。
 だけどそのふたりは俺たちではない。俺たちのシナリオは、もっとずっと、最悪だ。

 最悪な理由その一:サリ子の正体はスクールカースト上位の読者モデルをしている花室野々花で、ホイル大佐はスクールカースト底辺のアニメオタク原田洋平であるということ。
 最悪な理由その二:ふたりは同じクラス、席が隣同士だったということ。
 最悪な理由その三:花室野々花は、ホイル大佐が原田洋平だと知っていてずっとやりとりをしてきていたこと。

 最悪な理由が三つも重なれば、それはもう全てにおいて最悪だと言って良い。一体、いつ、どんなタイミングで花室さんが俺の正体を知ったのかは分からない。だけどそんなことはどうでもいい。一番の問題はここ。スクールカースト上位にいる彼女に、何も知らなかったカースト最下位の俺は、ずっと嘲笑われてきたのだろうということだ。
 花室さんの化けの皮はいつか剥がれるとは思っていたが、ここまで悪質だとは正直思っていなかった。いつも周りからおだてられ、持ち上げられてチヤホヤされて。それは花室さん自身に魅力があるからじゃない。彼女が読者モデルとかいう目立つことをしているからだ。有名なモデルと仲が良いから、花室さんに乗っかれば何かいいことがあるかもしれないと周りが思っているということに、本人は気付いていない。彼女がいないところで、同じグループの女子たちが悪口を言っているだなんて、彼女は想像もしていないのだろう。まあその悪口だって頭の悪そうなものばかりだ。

「いつも撮影撮影って、たかがドクモのくせに自慢している」
「ダイエットとか言って、お菓子食べてるうちらにデブって言ってるようなもんだよね」
「美香ちゃんのサインひとつももらってこれないくせに、仲良いとか絶対勘違い」
「読者モデルなんて、ただの捨て駒なのにね」

 馬鹿みたいだ。なんでこんな低能なやつらばかりなんだろう。心の中がなんて貧しいやつらなんだろう。かわいそうに。こいつらも、花室さんも。
 それに比べて、アニメの世界は本当にいい。そこには救いがある。どんなキャラクターにも背景があって、悪役であってもどこかしらにきちんと物語が作られている。人間もそうだって思うかい? そんなことはない。人間ってのは、もっと複雑で汚いものだ。
 だから俺は現実世界からは目を背けて生きてきた。アニメの世界、ネットの世界。それが俺にとっての全てだ。