家を出る前、朝のニュースに映し出されたのは、まっすぐに伸びる水平線だった。
 今日は一日、すっきりと晴れた青空が広がるでしょう、という天気予報のお姉さんの声がスピーカーから流れてきて「なんだかわたしたちみたい」とわたしは小さく呟いた。
 隣り合わせの海と空。だけどその両者の間には、決して交わることのない境界線がある。それはまるで、隣の席の原田くんとわたしのようで、交わりそうで交わることの許されないホイル大佐とサリ子のようだと、わたしはひとり、そんなことを感じていた。
 ホイル大佐とサリ子はあれからも変わらずにやりとりはしている。しかし、頻度は半分くらいに減り、お互いの現実世界での話題には触れないようになっていた。テストの話題、学校でのちょっとした出来事など、以前は気軽に話していた内容だ。わたしのあの一言をきっかけに、小さな歪みが生じているのは明確だった。

「言わなきゃよかったかな……」

 当たり障りのないやりとりしか出来なくなったわたしたち。今日も画面の向こうではホイル大佐が朝食べたトーストについて投稿している。以前ならばどんな投稿にもコメントが出来た。だけど今はそんな些細な日常が垣間見えるだけの話題にも、わたしは触れることが出来なくなっていたのだ。

『祝! ファイヤータイペイ映画化!』

 ぱっと画面に現れたのはホイル大佐の新しい投稿。ファイヤ─タイペイとは彼が愛するアニメのひとつだ。これならコメントできる!

『すごいね! おめでとう!』

 それでもわたしは、やっぱり彼と話がしたい。どこまでならばセーフで、どこからがアウトなのか。それを見極めながら、そのギリギリのところでわたしは彼と繋がっていたいのだ。