ブロックをしろ、という言葉への返事を決められずにいれば、再び彼からメッセ─ジが届いた。

『俺が言いたいのは、ネットだけじゃその人の全部なんか見えないってことだ。判断するには情報が少なすぎるのさ。俺のことを敵視している奴らなんて、この世界にはウジャウジャいる。だけどサリ子みたいに仲良くしてくれる人たちもいる。そういう人がいてくれればいいって思いながら、俺は毎日楽しくネットライフを送ってる』

 こんなに長いメッセ─ジが送れるのも、ダイレクトメッセ─ジならではだ。そして他の人には見られていない限られた空間だということが、彼の本音を引き出してくれているのかもしれない。

『わけもなく嫌いになったりするのが人間だろ。その時の気分とかテンションとか。同じセリフでも聞いた時の状況で流せる日もあればムカつく日もあるし。よく知らないけど嫌いってのもあるだろうし。でもそれが人間さ。それでいいじゃんと俺は思う』

 つらつらと、彼の言葉は電波にのってわたしの瞳に滑り込んでくる。そしてそれらは、ヒリヒリと傷を負ったわたしの心にゆっくりと染み込んでいった。

『わたしの思うようにしていいのかな……』

 ブロックする道を選んでも、違う道を選んでも、ホイル大佐はこれからもそばにいてくれるのだろうか。

『当然。ここは自由な世界なんだから』

 彼からはそんな心強い言葉が返ってきて、わたしは息を吸い顔を上げた。もやもやと渦巻いていた雲が、綺麗に晴れ渡るような感じがする。
 よし、覚悟を決めた。すべてのメッセ─ジに、きちんと返信をしよう。
 もらった言葉は、どれもただの悪意だけではないと思う。そういうことを言われるには、理由があるはずだ。嫌われる理由がある。もしかしたらわたしは調子に乗っていたのかもしれない。美香ちゃんと仲良くなれて、自分でも気付かないうちにプロのモデル気取りになってたのかもしれないし、知らずのうちに高飛車な態度になっていたのかもしれない。
 ホイル大佐は「ブロックしろ」と言ったけれど、わたしにはそれだけが解決の糸口だとは思えなかった。ちゃんと考えて自分なりの答えを出す。それこそが、話を聞いてもらったホイル大佐に対しての礼儀でもあると思う。
 排除するもひとつ。
 排除しないもひとつ。
 正解なんてない。人それぞれ考え方も違う。ホイル大佐にとっての自衛はブロックで、わたしにとっての自衛は受け入れるという方法なのだろう。それでいいのだと思う。みんな違う人間なんだから、分かり合えないのが当たり前なんだ。違うということ、分かり合えないことを知るということ、それを受け入れるということが、解決への第一歩なのかもしれない。
 彼とのメッセ─ジを終えたあと、わたしはひとつひとつに返信をした。目を覆いたくなるような言葉もあったけれど自分の行いを見直して返信をする。きっと前のわたしなら、すべて見ないふりをしたかもしれない。だけど今、こうして目を開けられるのはホイル大佐が味方でいてくれると思えるから。もしもわたしの行動を知ったら、彼は怒るかもしれない。
「バカだな! ブロックしろって言っただろ! ブロック!」なんて。
 マイナスの言葉に返信をしていくのは、想像以上に身も心も削られる思いだった。それでも、そんな風に怒るホイル大佐を想像したら、ちょっと笑うことができる。けれどきっと、彼はその後にこうも言ってくれるのだ。

 何をするのもきみの自由だ。ここは自由な世界なのさ──と。