「のん~! おめでとう!」
 教室へ行けば、クラスのみんなが声を揃えて祝ってくれる。学校に来る前にコンビニで買ってきてくれたらしい。一番近くで応援してくれたみんな。彼女たちが自分のことのように喜んでくれていることが、何よりも嬉しくてほっとした。
 最新号は今日が発売日のため、今現在、わたしのスマホには親戚や他校にいる友人、SNSで応援してくれていた人たちからのメッセ─ジを受信するのに大忙し。いつまでの落ち着くことがないため、先ほどサイレントモ─ドにしたくらいだ。
 一位になれて嬉しい。自分のことが認められて嬉しい。みんながわたしを受け入れてくれて嬉しい。
 そう思ったのは本当に最初の内だけ。お祝いのメッセ─ジの中、心無いものが混じっていたことに気付くのに、そう時間はかからなかったからだ。

『なんでブスなのに一位? 体売った?』
『美香ちゃんを利用しての一位、さぞ嬉しいことでしょう』
『絶対ほのちゃんの方がかわいいのに納得いかない』
『調子乗るなブス』

 割合で言えば、全体のほんの数パ─セントだ。残りの大部分は祝福の言葉で埋め尽くされている。それでも、その数パ─セントがわたしにとってはとても大きく、今までに感じたことのない恐怖が体を支配していったのだ。
 喜ばしいことだ。胸を張っていればいい。こんなの気にしなくていい。みんなの前で笑顔でいなくちゃ。そうやって気持ちを落ち着かせようと言い聞かせても、心の真ん中は太い鉄の杭で打たれたように鈍く痛み、錆臭いままだ。
 ポケットに入れたままの、今は何の音も振動もさせない小さなスマホ。それを取り出すのが怖くて、わたしは小さく息を吐き出した。そのため息に気付く人は、誰ひとりとしていない。

「ちょっと原田、のんはすごいんだからね? 有名モデルになったわけ。あんた、隣に座れてること光栄に思いなさいよ?」

 どこかへ行っていた原田くんが席へと戻ってくると、友人の内のひとりが上からそう言った。
 あ、原田くんには知られたくなかったのに……。
 ちくりと胸の奥が痛む。だってきっと彼は、わたしのことをまた「違う世界の人間」なんて認識するんだろうから。原田くんは煩わしそうにこちらを見ると「有名とかそういうの興味ないから」と言って椅子を引いた。
 ちなみに、悪意がある誰かからのメッセ─ジより、悪意のない原田くんの本心の方が少しだけショックだったというのは、ここだけの話だ。
 何あいつ、とみんなが眉を寄せているとチャイムが鳴って、担任がガラリをドアを開けた。パラパラとみんなが自分の場所へと戻っていく。周りが落ち着いたのを見計らって、わたしはそっと隣の彼へ声をかけた。

「ごめんね、うるさくして」
「別に、花室さんが騒いでいたわけじゃない」
「でも、わたしが原因だから」
「花室さん、何でも自分のせいって思うのやめたら? 自意識過剰じゃない?」

 はいおしまい、と一限のノ─トを取り出した彼は、いつも通り隅っこに絵を描き始める。
 置いてきぼりをくらったわたしは、彼の放った言葉の真髄にただただ赤面することしか出来なかった。