美香ちゃんの影響力は想像以上のものだった。その後の一晩でフォロワ─数は三倍に増え、クラスメイトたちからも美香ちゃんの投稿を見たという連絡がたくさん届いた。
美香ちゃんは普段、特定の誰かの名前をあげて投稿したりすることがなかったから余計かもしれない。恐るべし、人気モデルの影響力。
そんな彼女とはあれからずっと、メッセ─ジのやりとりが続いている。美香ちゃんは驚くほどに完璧な女の子だ。外見的な部分はもちろん、内面も本当に綺麗。裏表がなくて明るく、思いやりがある。きっと誰もが、こんな美香ちゃんに憧れを抱くだろう。
『のんは彼氏いるの?』
『いないよ~! 全然そういうのはないなあ』
女子高生同士のメッセ─ジのやりとりというのは頻繁に行われるものだ。画面上で文字を使っているというだけで、普段のおしゃべりと何ら変わりはない。今日の話題は女子高生らしく恋バナだ。美香ちゃんとこんな話が出来る日が来るなんて。
『じゃあ好きな人は?』
そんな質問に、わたしの脳裏にはぱっとある人物が浮かび上がった。口をとがらせながらスマホをじっと見つめているさえない横顔。いやいやいや、そんなまさか、好きなんてとんでもない。確かにホイル大佐は人として魅力的だとは思う。しかし実際の原田くんを恋愛対象として見られるかと言えば、それは全くの別の話だ。
『いないよ! 美香ちゃんこそどうなの?』
『わたしはね、好きとは違うかもしれないけど、憧れてる人がいるの』
美香ちゃんに憧れられる人というのは、一体どんな人なのか。モデル事務所の先輩とかかもしれない。きっと美香ちゃんの周りには素敵な人がたくさんいるんだろう。
美香ちゃんと仲良くなって分かったのは、彼女も普通の十七歳の女の子なのだということ。もちろん、どこにでもいる女子高生などという意味ではない。わたしたちと同じようにかわいいものを見てはしゃいだり、恋バナに花を咲かせたり、くだらないことで笑い合ったり。気付けばわたしたちは、何でも話すことが出来るくらいの仲になっていたのだ。
そんな日々を送る中、美香ちゃんの影響もあってかオンタイムでウェブサイトに表示されているランキングはうなぎのぼり。撮影の声をかけられることは以前より頻繁になり、誌面で使われるカット数もそれに比例するように増えていった。
おしゃれだと憧れてもらえるような写真を撮って、ポジティブな発言を心がけ、笑顔でいっぱいの自撮り写真を載せて、応援してくれる人たちのコメントに丁寧に返事をする。そしてわたしは遂に、人気投票コンテストで一位を獲ることが出来たのだ。
──だけどそれは、輝かしい毎日のスタ─トなんかじゃなかった。
『所詮、作り物の世界なのさ』
いつしかホイル大佐が言っていたこの言葉は、わたしに何度も問いかける。
お前は一体、誰なのだ──と。