『今日ね、すごく嬉しいことがあったの。ホイル大佐はいい一日だったかな?』
『おつ。俺は今日昔のアニメを見直していた。二十年ほど前のアニメなのに全く古い感じもしないし、世界が深い。充実した一日だった』
『何を見たの? わたしも見たい』
『あとでサイトのURLを送るよ。サリ子ならきっと気に入ると思う。今日はいいことがあったみたいでよかったな』

 今日のホイル大佐の口調は、どこかイケメンキャラのような雰囲気を纏っている。そう思っていれば案の定、それは恋愛をメインに描いた伝説的アニメが送られてきた。じっくりと見たことはないけれど、お母さんたちが若い頃に大流行した“恋愛のバイブル”的なものだったらしい。

『これ、見てみたいと思ってたの。送ってくれてありがとう』
『お前がどんな姿でも分かる、ってセリフがあるんだけどな、男の俺でもグッと来てしまった』
『ホイル大佐もいつか使うときが来るかもしれないよ』
『そうとも微塵にも思えないがな。リア充なやつらは使うのかもしれん』
『わたしもそんなシチュエ─ションは縁遠いなぁ』
『なんだ、サリ子も非リア充か。俺たち同類だな』

 別に嘘はついていないのに、心苦しいのはなぜだろう。サリ子の正体が花室野乃花だと知っても、彼はわたしのことを変わらずに見てくれるのだろうか。
 スマホを片手に持ったまま、ベッドの上で大きく伸びをした。ホイル大佐とサリ子の距離が縮まれば縮まるほど、原田くんとわたしの距離は離れていくように感じる。なんと返せばいいのか分からなくなったわたしは、気分を変えようとのんのんのアカウントに切り替えた。

「えっなんで……?」

 思わずそんな言葉が飛び出る。なぜかって、のんのんのフォロワ─数がぐんっと増えていて、その上応援メッセ─ジが通知欄を埋め尽くしていたからだ。
 何かあったっけ? 結果発表だってまだ先のはずなのに。ドキドキしながらその流れを遡っていけば、美香ちゃんの投稿がぱっと目に飛び込んできた。

『今日の撮影は、かわいいのんのんと。今度一緒に買い物行こう!』

 そこに映っていたのは、ピ─スを作った美香ちゃんの自撮り写真。その奥には、わたしがカメラに向かって笑顔を向けている姿がしっかりと入り込んでいる。さらに投稿にはわたしのSNSアカウントのIDまでもが書きこまれていた。
 間違いない。ここから一気にフォロワ─数が伸びたんだ。

『美香ちゃん! 投稿今気付いたよありがとう。びっくりしちゃった!』

 数時間前に交換した連絡先にメッセ─ジを入れると、美香ちゃんからもすぐに返事が返ってくる。

『こちらこそ今日はありがとう! 勝手にタグ付けしちゃってごめんね。のんの魅力、もっともっと広まれ~!』