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「いいね、もうちょっと二人寄り添う感じ! そうそう、いくよ、ちょっと顎ひいて。そういいね、かわいい!」
カシャカシャカシャッと何枚もシャッタ─が切られていく。ストロボが瞬く中、わたしたちは笑顔を見せたり、ちょっと眉を寄せてみたり、両手をあげて跳んでみたり、色々なポ─ズをとる。西山さんの言った通り、わたしと美香ちゃんのツ─ショットも多く撮られた。
そんな撮影の中、やはり美香ちゃんはプロだった。そんなことはは当たり前で分かり切っていたはずなのに、こうやって間近で撮影をしていれば、彼女は真剣にモデルという仕事に向き合っているということが空気だけでも伝わってきた。そんな彼女と一緒に映るわたしも、自然と背筋が伸びる。
美香ちゃんの隣で撮られるのだから、恥ずかしくないわたしで写りたい。ただの読者モデルだけど、ちゃんと期待に応えたい。
こんなに撮影自体を楽しいと思ったのは、そしてこれほどに全力を出し切ったのは初めてのことだ。気が付けば、あっという間に一時間が経過していた。
「のんのん、オッケ─です。お疲れ様でした!」
西山さんの声で、わたしはふうと息をつく。その瞬間に、先ほどまでカメラの前に立っていたシャキッとした自分が、へなへなと脳天から抜けてしまうのを感じた。
「のんのん、今日めっちゃ良かったじゃん!」
「本当ですか? 嬉しい!」
西山さんはにかっと笑うと、やはりわたしの背中をぱ─んと叩く。こうやって西山さんが背中を叩いてくれると、抜けちゃった魂もひょこっと戻ってくるような感覚がするんだ。逆も然り、だけど。
「のんのん、ちょっと話さない?」
そのタイミングで休憩に入ることとなった美香ちゃんがわたしに声をかける。今日は本当に、何かの神様がわたしに降りてきてくれているのかも。まさかの美香ちゃん本人からの誘いに、わたしは喜んで彼女にすすめられた椅子に腰を下ろした。
スタジオの中には撮影をするメインスペ─スの他に、休憩をしたりメイクをする場所も用意されていることが多い。女優ミラ─と呼ばれる、ライトが縁取るようにつけられている鏡が壁側に並んでおり、その手前にはミ─ティングも出来るよう向かい合わせで開かれた細長いテ─ブルを囲むように椅子が配置されている。
テ─ブルの上には、お菓子やサンドイッチ、スム─ジ─などが置かれていた。美香ちゃんはその中のひとつ、グリ─ンのスム─ジ─を手に取るとシャカシャカとボトルを振る。
「今日の撮影、すっごい楽しかったよ!」
美香ちゃんは人懐っこい笑顔をこちらに向けると、きゅっとボトルのキャップを捻った。
「そんな、それはわたしのセリフです! 美香ちゃんと一緒に撮影できてすごく嬉しかったです。ありがとうございます!」
そう返せば彼女は、柔らかくふふっと笑った。なんてかわいいんだろう。本当に同じ人間なのだろうか。
「あのね、連絡先とか聞いたら迷惑かな?」
彼女の言葉に、自分の耳を疑った。あの美香ちゃんが、わたしの連絡先を?
「え……本当に?」
思わずタメ語がぽろりと落ちる。嘘なんかつかないよ、と美香ちゃんは楽しそうに笑った。
「わたしたち同い年だよね? 仲良くしてくれたら嬉しいな」
泣きたいくらいに嬉しかった。わたしなんかがいいのかな。ただの読者モデルなのに。こんなすごいモデルさんである美香ちゃんと連絡先を交換するだなんて。だけど、こんなに嬉しいことはない。
──報告したいな。
ホイル大佐は、わたしのこの幸運な出来事を一緒に喜んでくれるだろうか。