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「急なスケジュ─ルでごめんねえ! 本当助かっちゃった~!」
重たいドアを開けば、それに気付いた西山さんが小走りにこちらへとやって来た。
スタジオ内ではパシャッパシャッと眩しいストロボが焚かれていて、他の読者モデルの子たちが数人先に撮影をしていた。あれ、美香ちゃんとふたりじゃなかったのかな。そんなことを思いながらカメラの奥を見ていれば、隣に立つ西山さんは声を落としてわたしにだけ聞こえるように顔を寄せた。
「撮影自体には都合があった子たち何人かに来てもらってるんだけど、メインは美香ちゃんとのんのんだよ。だから来てもらう時間もちょっとずらしてあるの」
ああ、なるほど。だからあの子たちはもう撮影を始めているのか。西山さんも、ドクモ同士でトラブルが起きないように配慮しているようだ。そういう気遣いも必要なのだから、編集者の仕事も楽ではない。
「おはようございます─!」
そんなスタジオ内に、かわいらしい声が響き渡った。美香ちゃんの登場だ。
「おはようございます!」
思わず大きな声で挨拶すれば、美香ちゃんはわたしを見てふわりと笑う。
「のんのんおはよう! そのワンピ─スすっごくかわいいね! どこの?」
わたしの名前を覚えてくれている……!
感動でちょっと泣いてしまいそうになる。美香ちゃんとはこれまでも何度か一緒に撮影に入ったことはあった。しかし、読者モデル数人と美香ちゃんというような感じで、わたしはたくさんいるうちの一人に過ぎなかったはずだ。それなのに彼女はわたしの名前と顔を覚えていてくれたんだ。
「これ、ラグナロウのワンピ─スで」
感動を抑えながら彼女の問いに答えれば、すっごく似合ってるよ~! と美香ちゃんはピ─スサインをくれた。
やっぱり神対応! そして本当にかわいい!
よろしくお願いしま─すと、奥にいるスタッフひとりひとりにも挨拶をする美香ちゃん。そんな彼女に見惚れていれば、その後ろ姿はくるりとこちらに振り返った。そして言ったのだ。
「のんのんって、サリ─みたい」
え? と薄く口を開くと、美香ちゃんは「なんでもないよ」と柔く笑う。心臓はどくどくとやたらと大きく騒いでいた。