そのやりとりを機に、ホイル大佐とのやりとりはまた頻繁に続くようになった。とうとうホイル大佐は「今更なんだが」と言いながらわたしのアカウントをフォローし、ふたりの距離は確実に近くなっていった。

『ホイル大佐、おはよ! 今日は一時間目からテストなんだ。やだやだ』
『まじか、うちのところもだ。朝っぱらからテストとか勘弁してくれ。アニメ検定なら喜んで受けるんだが』
『問一、サリーの好きな食べ物は何でしょうか』
『俺を誰だと? 答えシャインマスカット。問二、山芋侍シーズン3劇場版の劇中歌はいくつ使われているでしょうか』
『待ってめっちゃ難易度高い!』
『はいサリ子赤点。補修決定』

 隣の席に座りながら、わたしたちはそんなやりとりをしている。みんなが知らない、秘密のやりとり。──みんなが知らない、というか原田くんもサリ子の正体を知らないわけで。つまりこの状況は、本当にわたし以外は誰も知らない事実であり、そのことは少しだけ寂しくもあった。
 しかし、原田花室ペアにも若干の進展はあった。……勝手にペアにしたら怒られそうだけど。

「テストやだなぁ」

 そうやってリアルでも不満を溢したら、原田くんがスマホから顔をあげたのだ。これは彼と話すチャンスだ。

「ね、原田くんもそう思うでしょ?」

 しかし彼は「別に」とそっけなく言うだけ。嘘つけ。勘弁って言ってたくせに。

「アニメのテストとかならいいのにね!」

 先程のやり取りを思い出しながら言ってみれば、彼はわたしを冷めた目で一瞥した。

「花室さん、アニメのこと何も知らないだろ。きみには化粧検定とか流行検定とかパリピ検定とか、そういうものの方がいいんじゃないの」

 クールにそう言った彼は、また視線を手元に落としてしまった。
 ちぇっ。わたしとだって、もっと弾む会話をしてくれたっていいのに。だいたいパリピ検定ってなんだ。原田くんにとってわたしはパリピってこと? もしもそうだとするならば、やっぱりそれは少し寂しい。
 本当のわたしを知ってほしい。本当はそんなんじゃないのに。
 ──じゃあ何なの?
 自分の中のもう一人の自分がまっすぐな瞳で見つめてくる。分からない。本当のわたしなんて、自分でもよく分からない。
 ブブブと手の中のスマホが震える。ホイル大佐からの返事だろうか。

『とりあえず古典のテストでよかったと思っておく。アニメ検定なら満点主席だけど、これがパリピ検定とかだったら、俺は赤点決定だから。世界が違うってこえーなwとりあえずお互いにテスト乗り切ろうぞ。グッドラック!』
『うん、一緒にがんばろう!』

 その一言を返すのがが精一杯だった。
 ――世界が違う。
 その言葉は、思っていた以上にわたしの心に重く重くのしかかっていた。