壁の時計は八時過ぎをさしている。兄は腕を組んで、足元を眺めながらリビングを出た。その姿を見送って、弟が「兄ちゃん？」と呟いたが、兄にその声は届かなかった。

　風呂上がり、髪の毛を湿らせたまま、兄は自室に入った。布団を敷いて上に座り、こりすとあらくまについて思い出す。こりすには祓魔奇譚の他にもいくつか代表作があり、うち二作はアニメ化、さらに一方に関しては漫画化もされているという。あらくまは、最近は漫画家としてよりもイラストレーターとしての仕事の方が多いようだった。とりわけ儚げな美しい絵を得意とするようで、最近では、前期のアニメ作品のエンドカードを書き下ろしたという。

私生活では、なにやら少し前から、毎朝自宅のベランダに一羽のスズメが訪れるらしく、その個体に「めめちゃん」と名付けてその様子を密かに観察しているという。時折写真を撮っては、「今日のめめちゃん」としてブログに上げているらしい。その写真の中には、「めめちゃんとお友達」と題したものもあるらしく、あらくまはめめちゃんとそのほかの個体を見分けているようだ。