「一言もクラスメイトのこと悪く書いてねぇんだな。いいところばっか書いてて、お前の目からは、あの教室がどんなふうに見えてんだろうって思った」
「だ、だって高校の皆は……まぶしいから……」
「まあ、そりゃ遠くから見てたらずっときれいなものって、たくさんあるしな」
瀬名先輩の言葉が、ぐさっと心臓に突き刺さった。
そうだ。皆が眩しく見えるのは、私がその世界に入って、かかわる勇気がないからだ。
「別に、桜木がひとりでいたいならそれでいいけど、このノート見てたら、そうじゃなさそうだった」
「そんなこと……ないです。私はただ、思い出は残すっていうおばあちゃんとの約束を守るためだけに……」
「……そうか、なら俺の勘違いだ」
しばらく沈黙が流れて、私と瀬名先輩は同時に傘越しに空を見上げた。
羽のように軽い粉雪が傘に舞い降りて、スーッとすぐに滑り落ちていく。
さっきまでトゲトゲしていた気持ちが、瀬名先輩と一緒にいると、雪が溶けるかのように消えて無くなっていく。
ようやく気持ちが落ち着いてきて、私は自然と口を開いていた。
「イジメが……、はじめて母親に知られた日、母親に言われた言葉がずっと胸に引っかかってるんです。“私のことが本当に分からない”って、号泣しながら言われて……」
突然ぽつりと話し始めた私を、瀬名先輩は何も言わずに見つめている。
「“自分の気持ちを言葉にできない私のことが理解できない”って、それから度々怒られたり悲しまれたりするようになって、どんどん監視が強くなって……。母親はすごくはっきりした性格だから」
「……うん」
「それから、私は自分が面倒な性格の人間なんだって思って……。だから私はイジメられてたんだって、母親の言葉で納得したんです。イジメられると母親も傷ついて泣くから、だったらもう、ひとりでいようって……そうしたら誰も傷つけずに、私も傷つかずに済むって……そう思って……」
だんだんと声が震えてきて、私は涙を出さないためにずっと上を向いていた。
こんなこと聞かされても、瀬名先輩は困るだろう。
「私は、私を傷つけた言葉ばかり覚えてる……。きっと一生、忘れられない……」
困らせるって分かっているのに、どうして自分のことなんか話してしまったんだろう。
こんなこと、一生誰にも話すつもりなんかなかったのに。
「だ、だって高校の皆は……まぶしいから……」
「まあ、そりゃ遠くから見てたらずっときれいなものって、たくさんあるしな」
瀬名先輩の言葉が、ぐさっと心臓に突き刺さった。
そうだ。皆が眩しく見えるのは、私がその世界に入って、かかわる勇気がないからだ。
「別に、桜木がひとりでいたいならそれでいいけど、このノート見てたら、そうじゃなさそうだった」
「そんなこと……ないです。私はただ、思い出は残すっていうおばあちゃんとの約束を守るためだけに……」
「……そうか、なら俺の勘違いだ」
しばらく沈黙が流れて、私と瀬名先輩は同時に傘越しに空を見上げた。
羽のように軽い粉雪が傘に舞い降りて、スーッとすぐに滑り落ちていく。
さっきまでトゲトゲしていた気持ちが、瀬名先輩と一緒にいると、雪が溶けるかのように消えて無くなっていく。
ようやく気持ちが落ち着いてきて、私は自然と口を開いていた。
「イジメが……、はじめて母親に知られた日、母親に言われた言葉がずっと胸に引っかかってるんです。“私のことが本当に分からない”って、号泣しながら言われて……」
突然ぽつりと話し始めた私を、瀬名先輩は何も言わずに見つめている。
「“自分の気持ちを言葉にできない私のことが理解できない”って、それから度々怒られたり悲しまれたりするようになって、どんどん監視が強くなって……。母親はすごくはっきりした性格だから」
「……うん」
「それから、私は自分が面倒な性格の人間なんだって思って……。だから私はイジメられてたんだって、母親の言葉で納得したんです。イジメられると母親も傷ついて泣くから、だったらもう、ひとりでいようって……そうしたら誰も傷つけずに、私も傷つかずに済むって……そう思って……」
だんだんと声が震えてきて、私は涙を出さないためにずっと上を向いていた。
こんなこと聞かされても、瀬名先輩は困るだろう。
「私は、私を傷つけた言葉ばかり覚えてる……。きっと一生、忘れられない……」
困らせるって分かっているのに、どうして自分のことなんか話してしまったんだろう。
こんなこと、一生誰にも話すつもりなんかなかったのに。