ゆっくりそれを取り出すと、『るいおにいちゃんまたあそんでね』と書かれた折り紙が入っていた。
 ただ飛行機の折り方を教えただけなのに、あれが遊んでもらったことになるのか。
 年の離れた従弟にとって、ひとつの思い出になったんだろうか。
 俺はそれを再びポケットに戻して、駅に向かって歩きだす。
 突き刺すような冷気を肌で感じながら、なにひとつ大切な思い出を残せない自分の人生と、ささいなことが思い出となって積み重なっていく従弟の人生を重ねた。



 小学校の教師、顔も名前も覚えてない。
 中学校のクソ教師、他校生徒のケンカで濡れ衣を着せられたので覚えてる。
 高校の教師、インパクトがないのでたぶんふつうに忘れる。
 最近放課後に会ってるアイツ、変なやつだから、覚えやすい。

「類、ご飯買いに行こー」
 昼休み、机の上で突っ伏していると、クラスメイトの岡部(オカベ)という金色に近いボブヘアスタイルの女子が、やたらと大きなピアスを揺らしながら話しかけてきた。
 基本的に服装は自由な校風といえど、岡部はかなり独特なファッションセンスをしていて目立つ。
 俺は数秒停止してから、やることもないしついていくことにした。
 すると、岡部は「やった」と小さくガッツポーズをしてから、とある男子にも呼びかけた。
「菅原(スガワラ)も行こうよ。お昼ないっしょ?」
「おー、なに。久々に類も来んの?」
 窓際で眠たそうにしていたガタイのいい長髪の男子が、俺を見て珍しそうな顔をした。
 俺は何も言わずに教室を出ようとしたが、岡部がぴったりとくっついてくる。
 すると、教室にちょうど入ろうとしていた女子と岡部がぶつかった。ぶつかってしまった女生徒は反射的にすぐ岡部に謝る。
「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!」
「ってえな」
 低い声で岡部はそう言い放ち、舌打ちをした。
 女生徒は怯えきった顔で立ち去り、すぐさま友人の元へ駆け寄っていった。
 不機嫌そうな岡部を、菅原がなだめる。
「まあまあ岡部ちゃん、そんなキレないで」
「地味が感染る。マジ無理」
「岡部ちゃんが派手すぎるだけだから、それ」