しどろもどろに回答すると、委員長は派手なギャルと私の接点があるわけないと思ったのか、苦笑いしながら離れていった。
 私は、カバンで顔を隠しながら、俯いて村主さんがいないほうのドアからそそくさと出る。
 やっぱり嫌だ。瀬名先輩とかかわるのは、きっといいことがひとつもない。
 もうこの際、あのノートがどうなったっていい。いやよくないけど、友達がいないという状況は、あのノートが知られても知られなくても一緒なんだった。
 このまま全部真に受けて過ごしたら、そのうち都合のいいパシリにされたっておかしくない。
 私は速足で昇降口に向かって、水色のマフラーで顔をぐるぐる巻きにして外に出ようとした。
 すると、ポンと肩をうしろから誰かに叩かれる。
「昇降口集合って言ったっけ、俺」
 振り返らなくとも誰が話しかけているのかわかる。全身の血の気がサーッと引いていく。
「職員室に図書室の鍵取りに行ったら、教師全員目ぇ丸くしてたわ」
「あ……図書室集合って今日でしたか」
 震えた声で下手くそすぎる演技をしてみたが、瀬名先輩は眉をひとつも動かさないで無視をする。
 片手に持った鍵をチャリンと空中にあげてはキャッチしてを繰り返している。
「遠くの廊下から、お前がネズミみたいな奇妙な動きしながら、玄関まで小走りしてるの見えた。逆に目立ってんぞお前」
「え!? そうなんですか」
「行くぞ。図書室」
 手首を掴まれて、無理やり階段を登らされ、ぐんぐん図書室がある階まで近づいていく。
 図書室は二階の隅っこにあるので、同学年の生徒とすれ違い、私は居た堪れない気持ちになった。
 瀬名先輩は、石のように冷たい無表情なのに、なぜか芸能人のような華やかさがあり、各階で視線をぶっちぎりで集めていくから。
 二階に来ると、村主さんのように派手な美人が瀬名先輩のことを呼んだ。たぶん私のことは視界に入っていないだろう。
「類先輩、今日こそ遊ぼうよ。あたしん家今日両親いないからさ、何人か集まって遊ぼう」
「は? アンタ知らない人だから無理」
「ウケる。得意の記憶喪失ですか?」
「勝手にウケてろ」
「じゃあ、私のこと大切ってこと?」
「興味ないやつに対して、忘れる忘れないの概念ないだろ」
 冷たい。こんなに人に強く冷たく当たれる人間との、コミュニケーションの取り方を私はいっさい知らない。