付記

この小説には不思議な夢の話がでてくるのだが、実のところ、これは私自身の体験にもとづいている。
科学技術の世界に身をおいた者のひとりとして、科学と相いれない事がらを安易に受けいれるつもりはないが、主人公の良太と同様に、不思議な夢を二度にわたって体験したことにより、現在の科学知識では説明できない世界があることを、受けいれざるを得なくなったのである。
不思議な体験を有する人は思いの外に多そうである。学究あるいは科学技術に携わる人がそのような体験をしたとき、その探求に意欲を抱くにとどまらず、不思議な世界を世間に紹介し、人々の人生に寄与したいと願うのは自然なことと思われる。
図書館で調べてみると、そのような人の著作が少なからず見つかる。その著者が不思議な世界と真摯に向き合って著した書物であれば、単なる好奇心やオカルト趣味から離れて読むことができ、得られるところも多いはずである。とはいえ、超常現象や霊などに関する書物を安易に選ぶと、好奇心に導かれるままに、危険な所へ誘い込まれる惧れがないとは言えない。その種の書物をこれから読もうとされる方には、社会的に信頼される立場にある人の著作を、先入観をはなれて読んでいただきたいと思う。読む人ごとに受けとり方はさまざまであろうが、その読書が無駄に終わることはないはずである。