もっと笑顔が見たい。
 もっとそばにいて支えたい。
 自分のことを見てほしい――。

 数えあげれば、キリがない欲望。

 彼女の健気で純粋な目が、赤く染まる頬が。まるで自分のことを慕っている風に見せてくる。
 つい、勘違いをしてしまいそうになるくらい……。


 でも。過去に一度振られているのだからと自分を戒める。これ以上、結衣のことを特別な存在だと想わないように。
 結衣にとって自分は、ただの部活仲間。自分の絵を好きだと言ってくれているだけなのだと……。

 残念ながら結衣は“あのこと”すら忘れているのだから。



 もしかしたら、彼女は記憶の一部をどこかに置いてきたのかもしれないと、都合よく考えて。
 この旅行の前に、彼女の友人である永野未琴に確かめたこともあった。

 けれど。

『永野さん……最近、白坂さんは何かを忘れたりとか、そういうことが多くなっていない?』
『え? 健忘症とかそういうことですか? 全然、ありませんよ。いつもと変わらず、普通です。……何か結衣、変な行動とってましたか?』
『……いや。何もないならいいんだ』
『そうですか。でも結衣って。昔から忘れっぽいですからね』