「……あ。大丈夫、です」
慌てて笑顔を作り、窓の外へ顔を向けた。
夕方になり、だんだん車内が冷えてきた感じがする。
クシュッ、とくしゃみが出てしまい、恥ずかしさに顔を伏せる。
好きな人のそばでくしゃみをしてしまったなんて……、嫌われたかと思うと悲しい。絶対、ポイントが下がった。
「結衣、寒いの? これ、羽織ってていいよ」
気遣ってくれた蓮先輩が、自分の着ていたコートを脱ぎ、私の肩に掛けてくれる。
一瞬、抱きしめられたような形になって、先輩の香りにふわりと包まれた。
即座に顔が火照っていく。
「……ありがとうございます。でも、先輩は?」
「僕なら平気。こう見えて暑がりなんだ」
冗談ぽく笑った蓮先輩は、リュックの中から何かを取り出した。