「……」
お返しに、私もこっそり先輩の横顔を写真におさめる。
隠し撮りなんて、おそれ多くて普段の部活中にはできないことだ。
今日はプライベートでの動物園だから、特別。何をしても許されそうな気さえする。
「――あ。今、もしかして」
気配に気づいたのか、蓮先輩が私の方を振り向き、スマホに視線を落とす。
「はい。お返しに撮ってしまいました」
綺麗な横顔が撮れて満足した私は、スマホをしまい、スケッチブックを片付け始めた。
「データ、削除しておいてよ?」
苦笑いする先輩は、リュックにスケッチブックやペンケースをしまっていく。
「先輩が私のデータを消してくれたら考えます」
「それは……できないかな」
「じゃあ私も消しません」
先輩の写真を消すなんて勿体ないこと、できるわけがない。
ベンチから立ち上がり、二人で歩き出そうとしたとき。
「道が悪いから」
そう言って、再び先輩は手を差し伸べてきた。
この動物園は下り坂や階段が多くて、手を繋いでくれていると正直歩きやすい。
砂で滑りやすいのか、転んで泣いている幼児を何人か見かけたほどだった。