しばらく私と蓮先輩は、無言でスケッチを続けていた。

 だいたい描き終えたかなと息をついたとき、カシャ、と小さく音が聞こえて。振り返ると、先輩がこちらにスマホを向けていることに気がついた。


「え……? まさか撮ってないですよね、私のこと」
「ん?」
「景色を撮っていただけですよね?」


 心配になって確認してみると、蓮先輩は肩を揺らして笑い始めた。


「ごめん。結衣のこと、勝手に被写体にした」


 イタズラが成功したみたいな無防備な笑顔に、私は目を丸くする。


「絵を描いてる結衣が真剣な顔だったから、つい……。その表情を描きたいと思ったんだけど、写真の方が一瞬で手元に残るかなって」
「恥ずかしいから消しておいてくださいね?」
「どうかな?」


 そう言って笑った先輩の表情は穏やかで、心が和む。
 できれば、このまま笑顔でいてほしい。