気のせい、かな。
まさか蓮先輩が、私のことなんて異性として見ているはずがない。
ホッキョクグマは他にも何匹かいるようで。そのうちの一匹が水中へ飛び込み、私たちのすぐ目の前に現れ、周囲から歓声が上がる。
白い毛をなびかせ悠然と泳ぐ姿は迫力があった。
かなり分厚いとはいえ、ガラス一枚しか隔てていないこの状況。
知らず知らずのうちに緊張していたらしく、私は先輩の手をぎゅっと握りしめてしまった。
「あ……ごめんなさい」
周りに観客が多すぎて、私の声は届かなかったのか。蓮先輩からの反応はない。
代わりに突然、繋いでいた手が解放される。
ホッキョクグマを夢中で撮影する人が、私にぶつかりそうになっていて。蓮先輩が私の肩を引き寄せ、避けてくれたのだ。
それはまるで、片腕で抱きしめられているみたいな感覚で……。
「大丈夫? 人が多いから、怪我しないようにね。僕から離れたら駄目だよ」
心配そうに見下ろされ、熱くなった頬を意識しながら、小さくうなずくので精一杯だった。