今、蓮先輩と手を……繋いでいる?
 何かの間違い、だよね。
 きっと、はぐれないように面倒をみてくれている、それだけだよね。

 彼の手を握り返す勇気はなくて。ただ優しく誘導されるまま、目的地へ進む。


 ホッキョクグマ館は特に人気があり、館内の入り口は混雑していた。
 途中、短い階段があって、そのたびにしっかりと手を握り直してくれる蓮先輩。
 その表情は、いつもと変わらない落ち着いたもの。


「……あ。見えてきたね」


 想像していたよりも大きいホッキョクグマが一匹、ガラス越しに悠々と姿を現す。
 そろそろ手を離されるかと思いきや、


「足元暗いから、つかまってて」


 蓮先輩は私の手を離さず、そのまま繋いでくれていた。

 ほんのりと温かい、大きな手。
 守られているみたいで、何だか安心する。


「……なんて。本当はただの口実だけど」


 小さく呟いた言葉に耳を疑った。

 口実……って。
 まるで『手を繋ぎたい口実』みたいに聞こえてしまう。