「ありがとう。僕の絵を好きになってくれて」


 先輩はふわりと淡く微笑み、私からのプレゼントを受け取ってくれた。
 その笑顔は、さっきの女の子達に対するような困った顔ではなかったのが救いだった。私が部活の後輩だから、というのもあるかもしれない。
 受け取ってもらえただけで嬉しくて、私も先輩に微笑み返した。



――緊張がほどけないまま美術室を出たとき。
 廊下で柏木先輩の元彼女である、三井先輩とすれ違った。
 美術室に用があるらしく、片手に小さめの紙袋を持っていた。


「蓮、ちょっと来てもらえる?」


 廊下に柏木先輩を呼び出したようで、少しして彼が現れる。
 私は慌てて曲り角に隠れて様子を窺った。
 聞こえてきたのは、三井先輩の切ない想いだった。


「やっぱり私、離れたくない。蓮のことが好きなの」


 涙混じりの声音で、彼に抱きつく三井先輩の姿に息を呑む。
 柏木先輩の方は彼女の肩に触れているだけで、抱きしめ返していたわけではないのに。
 二人があまりにも親密で、お似合いで。私は知らず肩を落としていた。