「未琴。椎名さん達にも渡してくれる?」
「ん。いーよ」


 ガムを4つ未琴に渡したら、向かい側の千尋先輩が私の顔を見てニヤリと悪そうに笑った。


「な、何ですか?」
「いや。顔が赤いなと思ってさ」
「えっ」


 思わず頬に手を当てると、確かにいつもより熱い。
 そんな私を見て肩を震わせる千尋先輩。


「ほんと……わかりやすいな」
「少し暑いだけですから」


 軽く睨んだら、隣の蓮先輩がなぜか反応して顔を覗き込む。


「暑い……? 熱があるの? ちょっとごめんね」


 突然、ひんやりとしたものが額に当てられ、目を丸くする。
 蓮先輩の滑らかな手のひらが、私の前髪をかき上げ、熱を測ってくれていたのだ。


「うん。熱はないね。良かった」
「…………」


 ますます私の頬が熱くなっていく。
 何も言えない私を、千尋先輩は笑いを堪えて見ている。
 未琴は椎名さんや真鳥と話し込んでいて、気づいていないのが救いだった。
 私は窓の外へ顔を向けたあと、こっそり千尋先輩を睨んで溜め息をついた。