そのとき……視界の隅に、こちらを睨みつける気配があり、頬を強張らせた。

 色とりどりの傘の隙間から、沢本君の射るような目が私へ向けられている。
 思わず柏木先輩の袖を掴み、隠れるように身を寄せた。


「……どうかした?」


 怪訝そうに尋ねる先輩の手が、私の手に重なった瞬間――――

 フラッシュバックしたみたいに、頭の中に勢いよく映像が流れ込んできた。



 どこかの天井が見える。

 体にのしかかった沢本君。私の首に、ひどく冷えた手をかけて。

 もう片方の手が、私の頬へと滑り──……



「…………!」

「大丈夫? 白坂さん」


 目を閉じても、その残像は消えない。ドクドクと激しい心臓の音。

 肩を支えてくれる先輩の手が優しくて、だんだんと落ち着きを取り戻す。
 恐怖はしだいに遠のいていった。