「大丈夫? 白坂さん」
「あ……大丈夫、です。助けてくれて、ありがとう」
「いーえ。ああいうヤツ、許せないだけだから」
椎名さんは廊下の向こうに消えていく沢本君の後ろ姿を鋭い視線で追った。
他の子とは違い、スカートではなくスラックスを履いていて。それがまたよく似合っている。
女子の大半がブラウンのリボンをつけているのに対して、彼女はカーキ色のネクタイを男子と同じく首に緩く結んでいた。
髪も短めだし、パッと見は男の子に見えるかもしれない。
「……椎名さん。私の名前、知っててくれたんだね」
全然、名前も顔も覚えられていないと思っていたから光栄すぎる。
首を軽く傾けた椎名さんは、さも意外なことを言われたとばかりに目を丸くした。
「そりゃ知ってるよ。白坂さん、可愛いから」
さらっと告げられ、私の頬が急激に火照ってくる。
「ははっ、ほら、そうやってすぐ赤くなるとことか」
椎名さんは楽しそうに私の顔を見て笑った。白い歯が覗き、ひたすら爽やかな印象しか与えない。
……何だか、からかわれているみたい。