なぜ沢本君がそのことを知っているのかわからない。
だけど、私はそれでも柏木先輩のことが好きだ。
片想いでもいい。少しでも彼のそばにいられるのなら、振り向いてもらえなくていい。
「他に好きな人がいてもいいの。先輩のそばにいられるうちは、それで充分幸せだから」
「何で……、何でだ?」
私の言葉を聞いた沢本君は、顔色を変えジリジリとこちらへ詰め寄ってきた。
手首を痛いほど捕まれ、顔をしかめる。
「さ、触らないで……」
嫌悪感を覚え、わけもなく体が震えてくる。
「どうして、あいつじゃないといけないんだよ……」
絞り出したような悲痛な叫びが、静まり返った廊下に響く。
「何で、いつもいつも……同じ男を好きになるんだ?」
「――え?」
何を、言っているの?
私はこの前初めて、先輩のことを好きになったはず。
沢本君が何か勘違いをしているのだろうか。
私へ視線を置きながらも、虚ろになっていく彼の不気味な瞳。
恐怖を感じ、強く捕まれた手首をそのままに後ずさった。