「誰かと思ったら柏木か。珍しく怖い顔してるな」
同級生の姿を目に留めた藤川先輩は、面白そうにクスリと笑う。
「白坂さんの腕を掴んでいたから、良くないことを吹き込んでいるのかと思って」
口元は笑っているのに、まるで睨み合うように生徒会長と対峙する柏木先輩。
藤川先輩の方が目つきが鋭くて怖かったけど。柏木先輩も負けてはいない。
冷え切った瞳が、いつもの優しい表情とのギャップを醸し出し、その分迫力が増して怖かった。
「生徒会に誘っていただけだ。そんなに冷たい顔しなくても、勝手に彼女をさらいはしないって」
ちらりと私へ視線をよこした藤川先輩は、軽く肩をすくめる。
「悪いけど、この子はあげないよ。僕の大事な子だから」
絶対に渡さないとでもいうように、柏木先輩が私の肩を力強く抱き寄せる。
『大事な子』って……。
私を助けるためだとしても、つい意識してしまう言葉だ。
頬がカッと熱くなり、せわしなく胸の奥が騒ぎ出す。
「ふーん……、柏木のお手つきなら遠慮するかな。他さがすわ」
小さく笑みをこぼした藤川先輩は、途端に興味を失ったらしく。私のことを見ずに柏木先輩を一瞥してから二年の教室の方へ去って行った。