片想いの相手を、そんなにも大切に想い続けているなんて。
 顔も知らないその子のことが羨ましく思えた。
 勝ち目がなさすぎて、悲しくなる。


 ――それにしても、いつの間にあの彼女と別れていたんだろう。

 柏木先輩に憧れている私は、先輩に彼女がいると知って、それ以上好きにならないよう諦めたというのに。


 といっても、私には関係のない話。
 たとえ彼女がいなくても、先輩と対等に付き合えるような立場ではないのだから。



「で、先輩。その、今でも忘れられない人って。この学校にいるんですか?」


 どこまでも直球な村上さん。物怖じしないで、自分の聞きたいことを聞く。

 私にはない勇気が、少し羨ましい。


「……それは、言えない」
「えーっ、教えてくれないんですかー」


 さすがに何でも打ち明けてくれるわけではないようで。もうこの話はおしまいだと、苦笑いをした柏木先輩は村上さんへ席に戻るよう促した。


 そのとき――。

 ちょうどこちらを向いた先輩と視線が絡み……、なぜだか私は泣きたくなった。

 先輩の瞳の奥が、涙で濡れているみたいに思えたから。