「僕は好きだよ、結衣のこと」


 さらりと言われ、息をのんだ。


「何度かあきらめようとしたけど、気づいたらまた好きになっていた」


 まさか……、まだ好きでいてくれているなんて。


「もう一度、返事を聞かせてくれる?」


 深みのあるセピア色の瞳が、少しだけ不安げに揺れている。
 中学のときは怖くて言えなかった言葉を、私は思い浮かべた。
 一瞬だけ夕陽を目に映して緊張を紛らわせてから、深呼吸をし、先輩と視線を合わせる。


「蓮先輩のこと、好きです。何度も忘れようとしたけど、いつの間にかまた好きになっていました。ずっと……、好きでいてもいいですか?」


 必死に気持ちを伝えようとしていたら、目尻から涙がこぼれていった。


「……うん。好きになってくれて、ありがとう」


 蓮先輩の指が頬の曲線をたどり、涙を掬ってくれる。

 あの頃、心の片隅に残っていたのは、先輩の手のひらの温かさだった。
 人間関係で悩んでいた私の髪を撫でてくれたことを、今になって思い出した。
 その温かさに、どれだけ救われたか――。


 思えば、最初から蓮先輩を信じてさえいれば、こんなふうにはならなかったのかもしれない。

 嫌われることが怖くて。すぐにあきらめがちで。
 本当の自分を知られたら、全ての人が私を嫌いになると思い込んでいた。
 未琴や三井先輩のように。

 でも、中には蓮先輩や椎名さんのように、嫌いにはならないと言ってくれる人もいた。
 だから、これからもっと自分自身を好きになるための努力をしていこうと……心の奥で誓った。